34 熱
終わりそうでなかなか終わりませんが、
もうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。
さて!!今日は新たな登場人物が!!
もしかしたら夏は、1年越しの告白に私が何て答えるか、待っていたのかもしれない。
だけど、私は逃げ出してしまった。その場にいることが恐くなって、何も言えずに、すぐ後ろにあった階段を駆け下りた。椿、と夏が呼ぶ声もすぐに遠ざかって、教室を通り過ぎ、人気のない理科棟で、走りを止めた。
「はあっ、はあっ」
喉が潤いを求めて、きょろきょろと目を泳がせる。額には汗が滲んでいた。
「……逃げてきちゃった」
逃げたって仕方ないのに。この昼休みが終われば、5限目、また教室で顔を合わせなければいけないのに。
「どうしよう。教室に行きたくないよ」
髪をくしゃっと掻くと、額の汗が手の甲にうつった。心の熱が飛び出してしまったよう。汗は、とても熱かった。
――夏。どうして、あんなことを言ったの。
1年前のことなんて、今さら。どうして、今さら。
* * *
まもなく昼休み終了のチャイムが鳴ると、足がすくんで、動けなくなってしまった。さぁ行かなくちゃと思っているのに、心が、指令を受けつけてくれない。
「やだ。早く行かないと、授業が」
そうしているうちに、チャイムは2度目の音を鳴らした。短い移動の時間さえも終わってしまっていた。
しん、とした理科棟は、5限目は使われないらしい。相変わらず人気がなくて、私ひとりが地団駄を踏む姿だけが、眩しい陽射しに当てられて、ガラスに映っているだけ。
「誰も、いないや……」
何で私はここに、いるのだろう。うろたえる自分は、酷く滑稽に見えた。
するとそこに、私以外の誰かの、カツン、と鳴る、靴の音がした。
「おいそこ、何してる?」
声に驚いて振り向くと、眩しい方向に白衣が見えて、それが保健医だと気づいた。名前は確か……さっきまでの衝撃で、どうやら忘れてしまったみたいだ。
「あ、えっと……」
「お前、2年の弥代か。何でこんなところにいるんだ。チャイム鳴ったろ」
「いえ、あの……」
頭がふっ、と、軽くなる。
「あ」
「……え?」
そのときのことを、私はあまりよく覚えていない。
だけど、ひとつだけ、確かに覚えている。「急に倒れたんだよ」と後で聞かされたときに思い出す、先生に抱き締められた腕は、私の額に滲んだ汗のように、熱かった。




