33 嘘つきの真実
「椿。俺はお前が好きだった」
最後に、夏はそう言った。
* * *
「椿……が、ついた、嘘?」
身に覚えがないのは、きっと、私が椿になる前のことだから。つまり椿が、夏に、嘘をついたということだ。
「いや、嘘って言わないか。でも、俺が知らなかったら騙されてたんだから、同じことだよな」
「どういうこと?」
本当に分からないという顔をすると、夏は、私がそのことをすっかり忘れていると思ったのか、怒りと呆れを含んだきつい口調で、言った。
「お前にとってはその程度のことだったんだよな」
強い風が吹いた。ビュウっと一筋、ものすごい勢いで私の体を突き抜けて、ちょうど同時に振りかかってきた夏の言葉だけを、心の中に置き去りにしていった。
「去年の夏だった。夏休み直前の日の昼休み。部活のミーティングが終わって、椿を呼び出そうとして向かった教室で、椿は、みんなに囲まれてた」
聞いているだけしかできないと思っていた、私の知らない椿と夏の過去。だけど頭の中で、前にも同じような情景を思い浮かべたことがあると、気づく。
去年の夏の、昼休み。教室で、椿は友達みんなと――。
「廊下から、ちょうど匡基の声が聞こえてきたんだ。盛り上がる輪の中心にいたのは、椿だった」
夏のいない輪。突然の匡基の声。それは、確か――。
* * *
「は〜い、負けは椿〜。罰ゲーム決定!!」
「ええっ、マジ?! 罰ゲームって何なの?」
「発表しま〜す!! みんなで考えました〜。罰ゲームは……夏に告ってきてください〜!!」
「よし!! じゃあ早速行ってくるね!!」
「おぉ〜。椿めっちゃやる気じゃん!!」
「サクッと告ってサクッと恋人になってくるから!!」
* * *
「罰ゲームの、告白……?」
「思い出したのか。そう、俺はあれを、廊下で聞いてたんだ」
「え……」
夏が知っていた。椿から告白されることを。その告白は、罰ゲームだったのだと。
だけど、夏は知らなかった。罰ゲームは単なるきっかけ。椿は本気で夏を好きだったのだということを。
「高校に入ってすぐに仲良くなったのが、椿だったよな。お前になら何でも話せたし、一番、居心地が良かった。そんな椿から、まさか、俺を騙すために告白するなんてこと、聞くとは思わなかったよ」
みんなに冗談と思わせるために、わざと明るく振舞った椿。その、サクッと告ってサクッと恋人になってくるという言葉が、夏の疑心をさらに強くさせてしまった。
「……本当はあのとき、俺も椿を呼び出すつもりだったんだ。夏休みになる前に、言っておこうと思ってた」
「え?」
「椿。俺はお前が好きだった。本気で、告白しようと思ってた」
中途半端ですが、次回に続きます。




