表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
31/52

31 恋心の共有

 椿が入れ替わりをやめようなんて言うと思わなかったから、私も、まさか自分がこんなことを言ってしまうなんて、思わなかった。

「だめだよ椿。諦めたらだめ。夏を好きだったとき、後悔したんでしょ? 好きになってもらえるように努力してたら良かったって、思ったんでしょ。それならだめよ」

 夏を諦めようと、椿と同じように思った自分。だけどそんなことは今私の中にはなくて、ただ、椿には、諦めるなんてしてほしくなかった。

「何があったかなんて、あたしは知らないよ。でも椿、諦めないで。もう一度だけ、学校に行って」

「……でも、それじゃ桜は……」

「心配しないで。今日みたいに学校休んだりしないから」

「え?」

 夏にも言った。自分でも決めた。明日は学校に行く、と。

「あたしも明日、もう一度だけ行ってくる。そして、夏に言ってくる」

 学校に行くと決めてから。いや、夏が会いに来てくれたときから、そうしようと思っていた。

「あたしは椿じゃない。あたしは、桜なんだって、夏に、言うから」


 もう隠していられない。恋心は、ブレーキを壊してしまった。



 *  *  *



 次の日の朝、お互いの健闘を祈るように、そして今日で最後になる入れ替わりを少しだけ惜しむように、2人揃って制服を着た。ネクタイを締めるときは、入れ替わり初日のあの騒動を思い出して、2人顔を見合わせて、笑った。

 昨日の夜、椿は何があったのか話さなかった。結局私だって何も話していないから、これでおあいこ。今日学校から帰ってきたら、きっとお互いのこれまでの報告会をするだろう。


 私は夏に、すべてを話すと決めた。

 椿は3回しか会ったことのない彼に、告白すると、決めた。


 私たち双子は、初めて恋心を共有した。恋する喜び、恋した辛さ。私たちは同じ気持ちを抱えて、同じ痛みを慰めあって、もう一度頑張ろうと、2人で決めた。

 それがどんな結果になろうと――。2人の恋の行方が違うものになったとしても、私たちは、これで良かったのだと思う。


 桜と椿は双子。だけど、桜と椿は、違う人間だから。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ