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桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
30/52

30 双子、それぞれの恋

「学校休んだの、夏のせいじゃないよ。朝から気分が悪かったの。クラスマッチもあったし、熱中症だと思う。変な気遣わせてごめん」

 結局私は、夏に、あなたのせいだ、と言えなかった。だって考えてみれば、夏だけが悪いのではなくて、勝手に夏を好きになって、夏の言葉に傷ついている、私だって悪いのだ。むしろ、夏は何も悪くない。

「ごめん、夏。本当に、ごめんね」

「いや、そんな謝られても困るし、俺も悪かったと思う。ごめん」

「謝らないでよ。夏は何もしてない」

「あ、そうだよな。これ以上謝っても、しょうがないよな。それより具合、大丈夫なのかよ。明日は学校来れる?」


 もう二度と、夏には会わないと思っていた。入れ替わりは昨日で最後。椿の学校に行くことは、もう、ないと。


「……うん。明日、行くよ」

「そっか。絶対来いよな。俺もみんなも、椿が来るの待ってるから」

「あたしが行ってもいい?」

「お前しかいないだろ」

「あたしが、行ってもいいのね」

「だから、そう言ってんだろ」

「うん。今日ありがとう。夏が来てくれて、嬉しかった」

「な、んだよ急に。じゃあ俺、帰るわ」

「見送りできなくてごめん。また明日ね」

「ああ。じゃあな」

 去っていく夏の足音がやけに響いて、私の心と同じ音を刻む。ドクン、ドクン、と、いつもより早足で、だけどそれが心地良い。

「夏。あたしが行っていいんだよね」

 椿が来るのを待っている、と、夏は言った。でも私(桜)が行ってもいいかと聞くと、夏は「当然だ」と応えてくれた。

 こんなの、卑怯で、自分よがりなことかもしれないけれど。

「あたしが、行くからね」

 椿ではなく、私が。もう一度だけ、桜はあの学校に行く。

 

 次に夏に会うときは、真正面から向かい合って、ちゃんと、話せますように。



 *  *  *



 午後6時を過ぎて、ようやく椿が帰ってきた。おかしい。うちの学校は今日からテスト週間に入ったばかり。部活もないのに、帰ってくるのが遅すぎる。

「椿、おかえり。どうしたの、こんなに遅くまで、何をしてたの」

 玄関まで出迎えた私を素通りして、椿は階段を上がった。おかしい。学校から帰ると、椿はキッチンに向かうはずなのに。

「椿。どうしたの? 何かあったの?」

 私の問いかけに、椿は振り向かず、答えた。

「大丈夫、何でもないの。ちょっとやらなきゃいけないことがあるから、ひとりにして。夕飯になったら、ちゃんと行くから」

「……そう。じゃあご飯ができたら呼ぶからね」

 うん、と答えたのかさえ聞き取れないような微かな声。椿が部屋のドアを閉めて、物音が聞こえなくなった。


 ――椿。“また”泣いてるの?


 あのときと同じように。

 罰ゲームで夏に告白して、本気で失恋してしまったあのときのように、椿は、泣いているのだろうか。

 大丈夫、何でもない――。あれは、椿が泣きたいときに使う言葉だから。



 *  *  *



「そっかぁ。お母さん、今日は遅い日だったね。あたしいっつも忘れちゃう。ごめんね、桜にご飯作らせて」

「いいよ。どうせ椿はいつも手伝ってくれないし」

「あ〜ひどいっ。あたしだって食器出したりしてるでしょ」

「大皿出してって言うと底の深いボウル出すじゃない」

 学校から帰ってきてまだ1時間くらいしか経っていないのに、椿はすっかりいつも通りに戻っていた。真っ赤に腫れたはずの目も、そこにはない。

 椿は本当に泣いていたのだろうか。それさえ感じさせないほど、いつも通りの椿。だけど私には分かっていた。椿は確かに泣いて、今もその哀しみを、心に負っていると。

「……ねぇ、桜」

「なぁに?」

「今日、学校に行かなかったでしょ」

「えっ?」

「別に隠さなくてもいいよ。桜はもう入れ替わらないって言ったのに、今日は無理矢理あたしが頼み込んだんだもんね」

 椿がそう言って、隠せないと、悟った。

「どうして分かったの?」

「喬とか涼平とか、メール来たよ。『具合大丈夫か?』って」

 しまった。そこまで私は考えていなかった。乃李にはパソコンで送ったから、返事もパソコンに来たけれど、まさか、他の人から連絡が来るとは思わなかったから。

「桜、ごめんね。あたしいろいろ、桜に押し付けてたんだね」

「え?」

「メールで、言ってたよ。『クラスマッチのときに言った自分の気持ちに嘘はないから』って」

「……そっか」

「ごめんね。あたしが入れ替わろうなんて言ったから、クラスマッチの実行委員の仕事も、喬と涼平のことも、桜が背負うことになったんだよね」

 椿はいつになく、真剣で、哀しい目をしていた。

「椿、どうしたの?」

 そう聞くと、椿は俯き気味だった瞳に私を映して、言った。

「桜。あたしも、もういい。入れ替わりごっこは終わりにしよう。桜の言った通り、前のあたしたちに戻ろう」

 

 その淡い瞳に映していたのは、本当に、私だったのだろうか。






もうすぐ七夕なので、「〜ように」という表現を密かに入れています。

そこも注目していただければ……

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