22 初めての恋
またまた話がそんなに進んでいませんが、桜は恋愛初心者なので、順序を踏んでいかなければならないのです。
とりあえず今回で折り返しという感じです。
次回はもうちょっと物語を動かそうと思います。
大差で勝利したその試合。1回戦だというのに、周囲のどよめきはあまりに大きく、騒がしかった。
試合終了の挨拶を交わしたあと、喬は得点ボードにもたれて立つ私のもとへ走ってきた。
「椿!! 勝ったよ!!」
「見てたよ。おめでとう」
「もう俺、椿の姿見つけてからめちゃめちゃ試合頑張ったよ」
「2回戦も頑張って」
「もちろん!! 椿見ててよ」
「それはどうか、分からないけど」
喬は満足そうに笑って、チームのほうに戻った。かと思ったら、網にかかった魚のように、ジタバタとその場で地団駄を踏んでいる。運動神経のいい喬と夏はソフトにも出場するらしく、その試合がもうすぐ始まるのだという。2人はまだ熱気の冷めない余韻を残して、体育館を飛び出していった。
「あ、夏……」
何も話せないうちに、夏が行ってしまった。せっかくだから、夏に、「おめでとう」と言いたかったのに。
たかが1回戦で、と思われても。
私が夏の姿に見惚れていたのは本当だから、かっこよかったよ、と、ひとこと、言いたかった。
喬に言った「見てたよ」の言葉は、夏のこと。
「夏を見てたよ」という意味だったから。
* * *
バレーの得点係をしていた午後は、夏に会うことはなかった。クラスの女子のバレーの試合が始まったとき、ちょうど男子バスケは2回戦の最中だったらしい。そのあと乃李が、男子バスケは2回戦も快勝だったと教えてくれた。
「うちのクラスは今日負けなしだって。みんな頑張ってるでしょ?」
「へぇ、そうなんだ。すごいね」
確かに普段の体育でも、うちのクラスは平均的に成績がいいと思った。私が全部出なくても、優勝できる可能性はあるのだ。
「あたしが出てなくても、全然影響ないじゃない」
「違うよ。椿は実行委員で試合に参加できないから、優勝を椿にプレゼントしようって、夏が言ったからさ。それでみんな、頑張ってるんだよ」
「え?」
乃李は「あぁっ、言っちゃったぁ」と、はっとして口を押さえる。
「夏が、言ったの?」
「ん〜そうだよ。女子がみんな、椿がいないとダメだって消極的になっててね。たぶん、やる気にしようと思ったんじゃないかな。それに椿だけが参加できないの、気にしてたよ」
思わず顔が緩みそうになるのを、私は頬の筋肉を必死に突っ張って、堪える。
夏が私のことを気にしてくれるなんて。夏が、私を見ていてくれたなんて。
「椿も頑張ってね。あたしも練習してくる」
「うん。ありがとう」
あんなに憂鬱に感じていた、クラスメイトと過ごす日々。
それが今はこんなにも、仲間の一員になれたことが、ただ単純に、嬉しく感じる。
夏を好きになったことが、今の私をつくった。知らなかったものをいくつも知って、楽しいことを、何度も経験した。
夏がいて、私がいる。夏がいなければ、私はいない。
――あたし、夏が好き。夏が、大好き。
揺るぎない一途な想い。これまでに感じたことのない、心の動揺と、抑揚。
これが恋をするということ。
夏に、恋をしているということなのだろう。




