表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
22/52

22 初めての恋

またまた話がそんなに進んでいませんが、桜は恋愛初心者なので、順序を踏んでいかなければならないのです。

とりあえず今回で折り返しという感じです。

次回はもうちょっと物語を動かそうと思います。

 大差で勝利したその試合。1回戦だというのに、周囲のどよめきはあまりに大きく、騒がしかった。

 試合終了の挨拶を交わしたあと、喬は得点ボードにもたれて立つ私のもとへ走ってきた。

「椿!! 勝ったよ!!」

「見てたよ。おめでとう」

「もう俺、椿の姿見つけてからめちゃめちゃ試合頑張ったよ」

「2回戦も頑張って」

「もちろん!! 椿見ててよ」

「それはどうか、分からないけど」

 喬は満足そうに笑って、チームのほうに戻った。かと思ったら、網にかかった魚のように、ジタバタとその場で地団駄を踏んでいる。運動神経のいい喬と夏はソフトにも出場するらしく、その試合がもうすぐ始まるのだという。2人はまだ熱気の冷めない余韻を残して、体育館を飛び出していった。

「あ、夏……」

 何も話せないうちに、夏が行ってしまった。せっかくだから、夏に、「おめでとう」と言いたかったのに。

 たかが1回戦で、と思われても。

 私が夏の姿に見惚れていたのは本当だから、かっこよかったよ、と、ひとこと、言いたかった。

 

 喬に言った「見てたよ」の言葉は、夏のこと。

「夏を見てたよ」という意味だったから。



 *  *  *



 バレーの得点係をしていた午後は、夏に会うことはなかった。クラスの女子のバレーの試合が始まったとき、ちょうど男子バスケは2回戦の最中だったらしい。そのあと乃李が、男子バスケは2回戦も快勝だったと教えてくれた。

「うちのクラスは今日負けなしだって。みんな頑張ってるでしょ?」

「へぇ、そうなんだ。すごいね」

 確かに普段の体育でも、うちのクラスは平均的に成績がいいと思った。私が全部出なくても、優勝できる可能性はあるのだ。

「あたしが出てなくても、全然影響ないじゃない」

「違うよ。椿は実行委員で試合に参加できないから、優勝を椿にプレゼントしようって、夏が言ったからさ。それでみんな、頑張ってるんだよ」

「え?」

 乃李は「あぁっ、言っちゃったぁ」と、はっとして口を押さえる。

「夏が、言ったの?」

「ん〜そうだよ。女子がみんな、椿がいないとダメだって消極的になっててね。たぶん、やる気にしようと思ったんじゃないかな。それに椿だけが参加できないの、気にしてたよ」

 思わず顔が緩みそうになるのを、私は頬の筋肉を必死に突っ張って、堪える。

 

 夏が私のことを気にしてくれるなんて。夏が、私を見ていてくれたなんて。


「椿も頑張ってね。あたしも練習してくる」

「うん。ありがとう」

 あんなに憂鬱に感じていた、クラスメイトと過ごす日々。

 それが今はこんなにも、仲間の一員になれたことが、ただ単純に、嬉しく感じる。

 

 夏を好きになったことが、今の私をつくった。知らなかったものをいくつも知って、楽しいことを、何度も経験した。

 夏がいて、私がいる。夏がいなければ、私はいない。


 ――あたし、夏が好き。夏が、大好き。


 揺るぎない一途な想い。これまでに感じたことのない、心の動揺と、抑揚。

 これが恋をするということ。

 夏に、恋をしているということなのだろう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ