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桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
19/52

19 クラスマッチ開幕

 7月になった。去年よりも少しだけ、梅雨入りが遅かったのが心配だったが、何とか今日までに、梅雨はきれいに明けた。2週間振りに、空はターコイズを映し出している。

「それではこれより、クラスマッチの開幕です!!」

 生徒会長の合図で、涌き上がった歓声。全校生徒が一同に介した体育館は蒸し暑く、夏の訪れを充分に示している。

「椿、やっと本番だね!! 大変だろうけど頑張れ!!」

 私の横を何人かがすれ違い、声を掛けていった。たぶん、同じクラスの友達だろう。ここ最近はこの準備で、休み時間も放課後もろくに教室にいられないほど、忙しく動き回っていたから。

「では実行委員のみなさん。暑いけど、今日から3日間、頑張って成功させましょう」

 クラスマッチはクラス対抗の球技大会。ソフトボール、バレー、バスケット、サッカー、テニス、バトミントンを、3日に分けて行い、総合優勝を決める。スポーツ推進高だからこそのイベントだ。

 どれも雨が降るとできないものばかりだったから、次の週に延期の可能性があった。だけど2週間後には期末テストが控えているから、実行委員はもちろん、全校生徒が梅雨明けを望んでいた。その甲斐あって、今日のこの快晴。急に暑くなったけれど、湿気のないカラッとした天気は、風も爽やかで、気持ちが良い。

「椿は午前中、バスケ担当ね」

 実行委員は手分けして各競技につき、審判をしてくれる先生や部員の補佐をする。つまり、クラスマッチには参加できない。私が競技に出られないことはクラス中が残念がっていて、でも生徒会は実行委員を兼任する、というのは、初めから決まっていることだった。

 私がそれを知ったのは、椿から。お互いの学校生活を報告し合っているとき、不意に思い出したように、言った。

 実行委員なんて憂鬱だ。そう思って学校に行った次の日。

「椿がいれば優勝も夢じゃないのに。椿には全部に出てもらうつもりだったんだよ」

 というクラスメイトの言葉を聞いて、心底、実行委員の方が全然マシだ、と納得したものだった。

「椿、お前これからバスケ行くんだって?」

「喬」

 後ろから私の肩を叩いたのは、喬。その隣には、匡基と夏がいた。

「みんなはこれから?」

「俺らはバスケ第2試合だから、それまで外で練習なんだ。ところで椿、いつまでバスケ見てる?」

「午前中は第1体育館担当だから、バスケはずっといるよ。今日は2回戦まででしょ」

「じゃあ、俺らの試合も見てくれる?!」

「どうだろう? 4コートあるんだし、どの試合の担当になるか分からない」

「あぁ、そっか、そうだよな……」

 喬はがっくりと肩を落として、隣の匡基にもたれた。

  

 ――そういえば喬は……。

 

 思い出した。喬は椿に振られたばかりだった。どうやら、まだ椿を好きらしい。やる気を無くした様子の喬は、匡基に腕を引かれながら、体育館を出て行った。

 夏だけが、そこに残される。

「夏は、行かないの?」

「いや、行くけどさ……」

 夏は私をちらりと見て、目を伏せる。

「何よ?」

「いや、だからさ……」

「何」

 言いにくそうに口を噤んでいた夏は、再び顔を上げて、今度は私の目をじっと見て、言った。

「お前、喬のことどう思ってる?」

 

 そのときはまだ、その言葉に込められていた意味に、私は、気づいていなかった。






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