19 クラスマッチ開幕
7月になった。去年よりも少しだけ、梅雨入りが遅かったのが心配だったが、何とか今日までに、梅雨はきれいに明けた。2週間振りに、空はターコイズを映し出している。
「それではこれより、クラスマッチの開幕です!!」
生徒会長の合図で、涌き上がった歓声。全校生徒が一同に介した体育館は蒸し暑く、夏の訪れを充分に示している。
「椿、やっと本番だね!! 大変だろうけど頑張れ!!」
私の横を何人かがすれ違い、声を掛けていった。たぶん、同じクラスの友達だろう。ここ最近はこの準備で、休み時間も放課後もろくに教室にいられないほど、忙しく動き回っていたから。
「では実行委員のみなさん。暑いけど、今日から3日間、頑張って成功させましょう」
クラスマッチはクラス対抗の球技大会。ソフトボール、バレー、バスケット、サッカー、テニス、バトミントンを、3日に分けて行い、総合優勝を決める。スポーツ推進高だからこそのイベントだ。
どれも雨が降るとできないものばかりだったから、次の週に延期の可能性があった。だけど2週間後には期末テストが控えているから、実行委員はもちろん、全校生徒が梅雨明けを望んでいた。その甲斐あって、今日のこの快晴。急に暑くなったけれど、湿気のないカラッとした天気は、風も爽やかで、気持ちが良い。
「椿は午前中、バスケ担当ね」
実行委員は手分けして各競技につき、審判をしてくれる先生や部員の補佐をする。つまり、クラスマッチには参加できない。私が競技に出られないことはクラス中が残念がっていて、でも生徒会は実行委員を兼任する、というのは、初めから決まっていることだった。
私がそれを知ったのは、椿から。お互いの学校生活を報告し合っているとき、不意に思い出したように、言った。
実行委員なんて憂鬱だ。そう思って学校に行った次の日。
「椿がいれば優勝も夢じゃないのに。椿には全部に出てもらうつもりだったんだよ」
というクラスメイトの言葉を聞いて、心底、実行委員の方が全然マシだ、と納得したものだった。
「椿、お前これからバスケ行くんだって?」
「喬」
後ろから私の肩を叩いたのは、喬。その隣には、匡基と夏がいた。
「みんなはこれから?」
「俺らはバスケ第2試合だから、それまで外で練習なんだ。ところで椿、いつまでバスケ見てる?」
「午前中は第1体育館担当だから、バスケはずっといるよ。今日は2回戦まででしょ」
「じゃあ、俺らの試合も見てくれる?!」
「どうだろう? 4コートあるんだし、どの試合の担当になるか分からない」
「あぁ、そっか、そうだよな……」
喬はがっくりと肩を落として、隣の匡基にもたれた。
――そういえば喬は……。
思い出した。喬は椿に振られたばかりだった。どうやら、まだ椿を好きらしい。やる気を無くした様子の喬は、匡基に腕を引かれながら、体育館を出て行った。
夏だけが、そこに残される。
「夏は、行かないの?」
「いや、行くけどさ……」
夏は私をちらりと見て、目を伏せる。
「何よ?」
「いや、だからさ……」
「何」
言いにくそうに口を噤んでいた夏は、再び顔を上げて、今度は私の目をじっと見て、言った。
「お前、喬のことどう思ってる?」
そのときはまだ、その言葉に込められていた意味に、私は、気づいていなかった。