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桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
15/52

15 夏に恋する

「椿とは、付き合えない」

 夏のそのたったひとことが、椿には、何よりも辛くて、悲しかったのだという。そして、そのとき初めて、どれほど夏のことが好きだったか気づいたのだと。

「すごく、すごく後悔したの。何であたしは友達のままでいいと思ってたのか。もっと、夏に好きになってもらえるように努力してたら、何か、変わっていたかもしれないのに」

 そういえばあのころ、学校から帰ってきた椿が、リビングを避けて部屋に閉じこもってしまったことがあったのを、思い出す。

「椿? どうしたの?」

 部屋をノックしても呼びかけても返事はなくて、心配した私は、入るよ、と、ノブをひねった。だけどそのとき、椿が、「だめ!!」と、突然叫んだのだ。

「大丈夫、何でもないの。ちょっとやらなきゃいけないことがあるから、ひとりにして。夕飯になったら行くから。ちゃんと、行くから」

 あのとき椿がやらなきゃいけなかったのは、“泣くこと”だったのだろうか。

 椿は夕飯に降りてきて、翌朝も、いつも通りに学校に行った。私から見ても、本当に、いつもの椿だったのだ。

「椿は、夏を諦めたの? 今はもう友達としか思ってないって、本当に? だって、ずっと同じクラスなんでしょ。近くにいて、そんなに好きだった人を、忘れられるものなの?」

「あたしもね、無理だと思ってた。これからまたいつも通り友達として仲良いままなんて、絶対にできないって。あたしがいろんな部活の助っ人を始めたのも、生徒会に入ることを決めたのも、みんな、その時期。とりあえず、いろいろなものに目を向けたかった。夏以外に、夏以上に夢中になれるものを、見つけたかったの」

「見つかったの? 夏以上のものが?」

 椿はうん、と頷いて、また、頬を紅く高潮させる。

「さっきも言ったじゃない。あたしは桜の学校で、出会ってしまったの」

 椿があそこまで言う相手は誰なのか、私はすごく、知りたくなった。夏よりも好きになれる人、なんて、いないと思っていたから。

「早く見つけてね」

「大丈夫!! あたしもう、何もしないままなのは嫌なの」

 その椿の言葉を、私はすんなりと信じることができていた。

「ねぇ桜、桜は、夏のことが好きなの?」

「え……」

「桜が違うって言うなら、それでもいいよ。でも、もし桜が夏のこと気になってるんなら、あたしのことなんか気にしなくていいんだよ」

「うん、ありがとう」


 

 ――でもね、椿。



 ――分かってる?



 私が気にしていることは、もっと、別のところにあって。



 ――椿がだめなら、あたしもだめなんだよ。


 

 だって私は、“椿”としてしか夏のそばにいられない。椿とは付き合えない、ということは、夏が、椿の振りをした私を好きになることも、有り得ないと思うから。


 

 ――だからあたしは、夏のことを好きになっても、辛いだけなんだよ。


 

 だから私は、夏に、恋なんてしない。



 哀しいだけの恋になると、分かっているから。






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