14 告白
「あたしと夏? どうして?」
椿は不思議そうに顔を傾げて、言った。
「夏、椿のこと話すとき、何かすごく優しい目をしてた。もしかして、椿のこと好き、なのかなと思って」
私がそう答えると、椿は一瞬あっけに取られたあと、きゃはは、と笑い声を上げた。
「まさかぁ〜。あたしたちはただの友達だよ。1番仲の良い、男友達」
「椿はそうかもしれないけどさ、向こうはそう思ってないかもしれないじゃない」
「もしかして、もしかして桜、夏のこと好きなの?」
「……え?」
「夏のこと気にしてる」
「そんなこと、ない」
私は、椿が気になっているだけ。ただ、それだけ。
「桜がそれでいいんなら、いいけど。でも、誤解しないで。あたしと夏の間には何もなかった。それを望んだときもあったけど、今はもう、あたしは夏のこと友達としてしか見てないから」
「え?」
椿の言葉が、鋭く突き出ていた私の心のアンテナに引っ掛かる。
「椿、それを望んでいたって、どういうこと?」
「え? あぁ、それはね……」
椿は自分の言ったことに驚いていて、それは、無意識に出てしまった言葉のようだった。きっと椿自身、それを言うことはないと思っていたのだろう。
「去年の夏だったかな。あたし、ずっと夏のことが好きで告白したんだけど、すっぱり振られちゃったんだ」
椿は過去を懐かしみ、少しだけ愁いを帯びた瞳で、私を見つめた。
* * *
1年前の夏、椿は夏に告白した。だけどそれは、クラスの友達と賭けをして負けた、罰ゲームだった。
「は〜い、負けは椿〜。罰ゲーム決定!!」
「ええっ、マジ?! 罰ゲームって何なの?」
「発表しま〜す!! みんなで考えました〜。罰ゲームは……夏に告ってきてください〜!!」
たまたまその場に、夏はいなかった。夏は冗談の告白とかを異常に嫌うから、夏がいたら、こんなことできない。だからこそ、みんな、夏の反応が見たかった。夏の暑さに、悪ふざけが勢いを増していた。
「椿と夏はそろそろ付き合うべきでしょ〜」
「やだ、やめてよ。あたしと夏はそんなんじゃないよ」
そのころ、椿は本当に、夏のことが好きだった。誰にも言ったことはないけれど、椿はずっと、夏のことが好きだった。
だけど、告白なんて到底できないと思っていた。このまま友達としての関係が続いていけるだけでいいと。そんなときにこの機会。椿にとっては、チャンスでもあったのだ。
――もし振られても、みんなは冗談って分かってるんだし、夏は、告白を断ったからって気まずくなるような奴じゃない。それに、夏がもし、あたしのことを好きでいてくれたら――。
「よし!! じゃあ早速行ってくるね!!」
「おぉ〜。椿めっちゃやる気じゃん!!」
「サクッと告ってサクッと恋人になってくるから!!」
周囲には、いかにも罰ゲームを楽しんでいるという感じを見せて。
そうして椿は昼休み残り10分に夏を体育館裏に呼び出し、みんながこっそり聞き耳を立てている中でサクッと告白し、サクッと振られたのだと言った。