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桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
12/52

12 喧嘩

 その日はすぐに母が帰ってきたから、学校の話はしなかった。そのままお互いのことは何も話さずに、次の日に学校に行ったら、なぜか私はいつもより、周囲に敬遠されていた。敬遠というより、凝視や戸惑いといったような。

 視線は確かに送られているのに、そちらを見ると、ぱっ、と、目を逸らされる。そんなことは普段もよくあったけれど、やっぱり、何か違っていた。

「弥代さんってもっとクールな人なのかと思ってたけど、すごく明るいんだね」

「我が高のクールビューティは、我が高のアイドルになったな。ま、どっちにしろ俺たちが手を出せるような人じゃないけどな」

「ああ、憧れだけ持っておこうぜ」

 ちらほらと、そんな風に話す声が聞こえてきた。

「いったい何なの? 椿は何をしたのよ」

 クラスの友達は言った。「桜、昨日はどうしたの? いいことでもあったの?」と。

 剣道部の友達は、「桜っていつもはトレーニングも平気な顔でこなすけど、昨日は違ったよね。『もう疲れた』とかいきなり言い出して。みんなびっくりしてたんだよ」と、言った。

 それを聞いて、私は、何となく椿のしたことが分かった。きっと椿は普段の椿のまま、桜になろうとはしないで、生活していたのだろう、と。


 ――ずるいよ、椿。


 私だって、普段の自分のままでいたかったのに。それなのに、ちゃんと椿になりきって、椿のイメージを壊さないように、したのに。

 ずるい。椿、ひどい。本気で、そう思った。

 だけど、とにかく今は、早く椿に会って話を聞かなければ。

 部活終わり、私は走って家に帰った。


 

 *  *  *



「嫌!! あたしはもう絶対嫌だからね」

「そんなこと言わないでさ、ねぇ?!」

 家に戻ってすぐ、椿と言い争いになった。原因はこれまで通り、やっぱり椿。私が家に帰ると椿は玄関で待ち構えていて、驚いている私に、突然言った。

「桜、おかえり!! ね、もう1回学校入れ替わらない?!」

「な、に言ってるのよ!! あれは1度きりでしょ!!」

 そこからしばらくは玄関でそのやり取りを繰り返し、そのうち母が帰ってきたことで一時中断となったのだが――。

「もう寝る!!椿も早く部屋に戻って寝なよ」

「だめ。桜がやるって言ってくれなきゃ、戻らない」

「何なのよ、もう!!」

 と、食後にまで続いていた。

「何で嫌なの? あたしの学校楽しくなかった? クラスみんな仲良かったでしょ」

「あたしがそういうの苦手なの、椿だって学校行って分かったでしょ? ひとりのほうが楽だし、誰かに気を使うのは疲れるの。面倒なのよ」

 そう言うと、今度は椿が、当然のように返す。

「気を使う必要なんてないじゃない。だって友達だよ? 気なんか使う関係じゃないでしょ」

「椿には分からないよ。あたしと椿は、違うもん」

「違うって、何が」

 椿は一層、強い口調で言った。初めて見る表情に、私は思わずぐっ、と口を噤み、黙る。

「桜。あたしと桜は何が違うの。教えてよ」

「だって……違うじゃない。性格だって学校生活だって、全然違う。あたしは椿みたいに、何でも楽しければいい、みたいな考え方はできない。あたしたちが同じなのは、顔だけよ」

 このとき椿にそう言ってしまったことを、私は一生忘れない。

 椿も、一生忘れないと思う。

「桜、あたしは楽しいことは好きだけど、楽しければそれでいいなんて思ってない。あたしだって、理由もなく突っ走ってるばかりじゃないよ。桜は分かってくれてると思ってた。ねぇ桜? あたしが今、もう1度入れ替わろうって言うのにも、理由があるんだよ? くだらなくて、何だそんなことって思うようなことでも、ちゃんと、理由があるから言ってるんだよ?」

 椿は諭すように語って、そのあと、哀しそうに俯いた。



 このとき椿が言ったこと、椿の見せた私への失望の表情を、私は、一生忘れない。

 椿だって、忘れないだろう。





この双子、初めての喧嘩です!!

初めてのケンカが入れ替わりについてって、何なんでしょう…


さて、今のところ全然恋愛が絡んでいないような気もしますが、

次に次くらいからは恋愛主体になってくるのではないかと。もちろん桜と夏です。


と、いうことは……

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