男子高校生Ⅲ
「なあ、なんで河西はいきなり僕を推薦したんやと思う?」
夕暮れに染まる街を徐々に暗闇が包み始める、そんなどこか所在なさげな時間に僕とヤマは2人、家路を歩んでいた。
「そんなん決まってるやんけ、河西はお前のことが・・・」
余計な事を言い出しそうなヤマの言葉を遮り、僕はすばやく言い返す。
「はいはい、お前のモテない中学生みたいな早とちりは分かったから、真面目に考えてくれ」
「いや、俺は案外本気で言ってるねんけどなー だってそうやろ? そうじゃなかったら普通その後すぐに、副委員長に立候補するかね」
それは確かに僕の頭にもよぎった。しかし、それはないだろう。河西は今まで僕に対して全く興味がない様子だったし、僕もいつも静かな彼女を特段気にかけなかった。
「それはあれやろ。僕に委員長の役を押し付けたから、自分はその代わりに副委員長になったってだけやろ」
「そうかなー 俺の考え方のほうが合点がいく説明やと思うねんけどなー」
「ないない、はい、もうこの話は終わりや」
「なんやねん、自分で言い出したくせによー まあ、ええわ。それじゃこの前のリンちゃんのライブについての話を聞いてもらおか」
正直な所、全く興味がわかないが、今日は仕方ないから聞いてやろうと思う。
「あー あのスタンド席しか当たらんかったってやつ?」
「そうそう、けど聞いてくれ!! リンちゃんがライブの最後に投げたサインボールが・・・」
「サインボールがどうした?」
「俺のところに来たんよ! それで俺は必死こいて取るわな。けどな、俺の隣にいた家族連れの1番ちっさい女の子がよ、羨ましそうに俺のことを見つめるわけよ」
「それで、どうしたんや?」
「そらお前、そんな純粋無垢な瞳で見つめられたら、あげるしかないやろ~」
「なるほど、んでお前はガチなほうのロリコンと・・・」
「なんですぐそういう結論に持っていくかな。それがこの話にはまだ続きがあってやな。俺がボールをあげたのをなんとリンちゃんが見てたわけよ。せやからお礼が言いたいとか言って、マネージャーさんに頼んで俺を舞台裏に入れてくれんたんよ」
「それファンにとっては卒倒もんに嬉しいんとちゃうん?」
「当たり前やろ! あ~ あの時は天国のようなひと時やったな。リンちゃんに名前聞かれたとき、テンパりすぎてめちゃしどろもどろなったわ」
「ふ~ん でも、家族連れとかで見に来るってことは本間に人気やねんな」
「お前がテレビとか見なさすぎやねん。本間にすごいねんからな」
「そんなん言うんやったら1回聞かせてくれよ」
「おういっぺん聞いてみ。絶対はまるから。今度CD持ってくるわ」
まあ、CD1枚くらい聞いてみてやるか。そう思い、僕は返事した。
「あんま期待してないけどな」




