男子高校生Ⅱ
教室に流れる気まずい沈黙、これは全国どこの高校だろうがよく見る光景だろう。だが、残念ながらたいていクラスに一人か二人はいるこの空気を打ち破ってやろうという奇特な輩はうちのクラスにはいないようだ。
「そんなに難しく考えなくてもいいんだ。ただ、クラスの代表としてみんなをまとめてくれるだけでいいんだ」
井上先生の声がむなしく教室に響き渡る。誰もがうつむき、沈黙を守る。集団主義国家に生きる日本人にとってこういう面倒な役回りは絶対に避けたいと思うのは至極当然なことであろう。
「それじゃあ、誰か、この人がいいとか、この人がそういう役割に向いていると思うって人はいるか?」
知り合ってまだ数日の間柄なのにそんなことが分かる人がいるはずがないだろう。
そう心の中で毒づいていると、一人の生徒が僕の背後で手を挙げるのを感じる。
「私、恩田君がいいと思います」
なるほど、確かにあいつなら要領もいいと思うし、向いているかもな・・・って、ええ!!?? 僕!?
「河西さんがそう言っているが、どうだ恩田? やってみる気はないか?」
みんなの視線が僕に集まる。その目は僕に頼むから受けてくれ。そうすれば、ことは丸く収まるんだということを暗に伝えているようだった。
「いいじゃん、悟志。お前、結構こういうの得意じゃん。中学の時、クラス委員やってたじゃん」
チェックメイト。
心の中にその言葉が浮かび、はじけた。ヤマの余計な発言によって、僕の運命は決定づけられたようだ。
あの野郎、中学の時も、あいつの余計な発言によって僕がクラス委員になったのを忘れたのではあるまいな。いや、あいつのことだ、そんな記憶などリンちゃんとかいうアイドルの歌の歌詞を覚えることに脳の容量を取られ、とっくに記憶の彼方に飛ばされていることだろう。
僕は全てをあきらめ、クラスの委員長の役割を受けた。
「よし、それじゃ次は副委員長だな。誰か委員長をサポートしてくれるという人はいないか」
再び、後ろで手が挙がるのを感じる。すっかり忘れていたが、それは僕を委員長に仕立てたそもそもの元凶、河西智代のものであった。
「そうか、河西やってくれるか! よし、みんな恩田と河西に拍手」
教室に拍手が響く。それは面倒な役割を押し付けられた僕に対する憐みな感情が込められていた気がしたのは、僕自身がひねくれものであるからだろうか。




