男子高校生Ⅰ
「はい、みんなおはよう!! 今日から1年間、みんなと一緒に1組を作っていくことになった井上優作です! よろしく!!」
男が口からツバを飛ばしながら、教壇で最初の挨拶をしている。服装は上下を真っ赤に白のラインが入ったジャージといった、まるで「ごく〇ん」とかいう少し前のドラマに出てくる女教師の男版といった感じだ。クラスの全員が、彼の些か空回りしている演説を聞き、苦笑している。今の時代にはもはや絶滅危惧種である希望に満ち溢れた熱血教師、その姿に恩田悟志は哀愁すら感じる。
こういう人、見てて可哀そうだから、嫌いになれないんだよなー
「ちなみに趣味は映画を見ることだ。なにかおすすめの映画があれば、先生に教えてくれよ!」
あ~この人、学園ものの映画とかドラマ見て感化されたんだろな。今時の高校生はそんなに単純なものじゃないと思うぞ。
「よし、じゃあ先生、自己紹介したし、みんなにも自己紹介してもらおうかな。はい、じゃあ出席番号1番の人から」
淡々と自己紹介を続けていく生徒たちの声を聞きながら、悟志はクラスの女子たちを物色する。
なんか、いまいちだな。
整ったどこか西洋人を思わせる顔立ちと、抜群の運動神経、さらに頭もよい悟志は御多分にもれず、昔からモテにモテた。それゆえに、女子に対する評価は厳しく、並大抵の女子では見向きもしない。
そうこうしているうちに自分の番が回ってきたようだ。悟志は立ち上がり、クラスメートたちの顔を軽く見まわし、話し出す。
「恩田悟志です。中学の時はバンドでギターをやってました。現在バンドメンバー募集中です。楽器ができる人がいたら気軽に声かけてください!」
自分をよく見せる方法は少しは心得ているつもりだ。さわやかでフレンドリーな男の子、これでクラスの高校生活の本分はイケメンの彼氏を作ること。そう勘違いして息巻いている女子が悟志の周りにやってくるだろう。そういう目先の些末なことに釣られる女子たちを退け、悟志の心をしっかりと見てくれる女の子をゆっくりと探せばよい。
1時間目は全員の自己紹介が終了したところで終了した。悟志がトイレに立とうとしたところにやかましい声を響かせながら、ヤマが突っ込んでくる。
「悟志く~ん、君は相変わらず、なんのおもしろみもないやつだね。あんなに自分を取り繕ちゃって」
「うるせえよ、お前なんて最初から最後までダダすべりだったじゃねえか」
「馬鹿野郎、男には負けるとわかってても、戦わねばならないときがあるのだよ」
「かっこつけやがって、何が趣味はコンビニのおりぎりを綺麗にあけることだよ。あんなので誰が笑うんだよ」
「しゃあないわな、みんな緊張してて空気が硬かったからな」
「お前が硬くしたんだろが、ド頭にリンちゃんを愛する純情高校生の「山本 山」ですなんて言うから」
「あー俺の名前、変わってるもんな」
「そうやけど、今言ってるのはそこじゃねえよ、そこじゃ」
呆れかえった悟志は純情高校生が何かまだわめくのを放って、さっさとトイレに向かう。