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暴力とセックス

作者: もどろい
掲載日:2026/05/17

短編の練習がしたくなったので、ここ。

ある日、俺は暴力とセックスの違いが分からなくなった。


人参を刻みながら、分からなくなった頭を振った。

「なあ、俺はセックスしてるか。」

テレビを見ていた晴海が振り返った。

「今はしてない。昨日はした。」

「そうか。そうだよな。」

晴海はテレビに視線を戻した。俺は人参を切った。

「なあ、俺は暴力してるか。」

「今はしてない。昨日もしてない。」

「そうか。そうだよな。」

晴海は振り返らない。俺は人参を切り終わった。包丁を置いて、手を洗う。それから、晴海の元へ向かった。ソファの隣に座る。

「急にどうしたの。」

「いや、暴力とセックスの違いが分からなくなったんだ。」

「あー、なるほど。」

俺は晴海の腰に手を回した。晴海が俺の頭を撫でる。その腕を掴んだ。顔の前に持ってきて、噛んだ。歯形を付けようと思った。しなやかな前腕に歯が食い込む。

「美味しい?」

俺は口を離した。

「これは、暴力だよな?」

「セックスじゃない?」

俺は分からなくなった。晴海の前腕を取ったまま、その人差し指を口に入れた。舌を絡める。舌の感覚で、晴海の指先の形が分かる。晴海はテレビを見ている。生涯忘れないように、その形を覚えようとした。

「何してんの。」

「これはセックスだよな?」

「うん、何してんの。」

「死ぬまで忘れないように、と思ったんだ。」

「じゃあ暴力じゃない?」

俺は分からなくなった。

「なあ、晴海は暴力とセックスの違いがわかるか。」

晴海はめんどくさそうに俺の方を見た。

「わかるよ。」

「教えてくれ。」

そう言うと晴海は俺の頭に手を回してキスをした。頭を固定して逃げられないようにした上で、口内を蹂躙する。これは、暴力か。それともセックスだろうか。分からない。分からない。暴力とは乱暴で不器用なセックスのことか。セックスとは強く大きな暴力のことか。思考に酸素が奪われていく。息ができないまま、私は晴海に食べられていた。

唇が離れた。必死に息を吸う。晴海も肩で息をしていた。呼吸が荒れたまま、聞く。

「どっち。」

「何が?」

晴海はニコニコしていた。

「今の。暴力かセックスか。」

「今のは、」

俺は言葉を待った。答えが知りたい。安心したい。俺が今までしてきたことは暴力だったのか、セックスだったのか。

「今のは、キス、だよ。」

「セックスじゃん。」

「ううん。」

「じゃあ暴力?」

「ううん。」

「キス。」

「うん。」

そっか、と俺は俯いた。思考がまとまっていく。

「じゃあ、セックスだな。」

晴海は笑顔で言った。

「私も歯形つけていい?」

「だめ。」

俺は立ち上がって料理の続きに戻った。晴海は前腕をさすっていた。

その頃にはもう、さっきのキスは暴力になっていた。

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