暴力とセックス
短編の練習がしたくなったので、ここ。
ある日、俺は暴力とセックスの違いが分からなくなった。
人参を刻みながら、分からなくなった頭を振った。
「なあ、俺はセックスしてるか。」
テレビを見ていた晴海が振り返った。
「今はしてない。昨日はした。」
「そうか。そうだよな。」
晴海はテレビに視線を戻した。俺は人参を切った。
「なあ、俺は暴力してるか。」
「今はしてない。昨日もしてない。」
「そうか。そうだよな。」
晴海は振り返らない。俺は人参を切り終わった。包丁を置いて、手を洗う。それから、晴海の元へ向かった。ソファの隣に座る。
「急にどうしたの。」
「いや、暴力とセックスの違いが分からなくなったんだ。」
「あー、なるほど。」
俺は晴海の腰に手を回した。晴海が俺の頭を撫でる。その腕を掴んだ。顔の前に持ってきて、噛んだ。歯形を付けようと思った。しなやかな前腕に歯が食い込む。
「美味しい?」
俺は口を離した。
「これは、暴力だよな?」
「セックスじゃない?」
俺は分からなくなった。晴海の前腕を取ったまま、その人差し指を口に入れた。舌を絡める。舌の感覚で、晴海の指先の形が分かる。晴海はテレビを見ている。生涯忘れないように、その形を覚えようとした。
「何してんの。」
「これはセックスだよな?」
「うん、何してんの。」
「死ぬまで忘れないように、と思ったんだ。」
「じゃあ暴力じゃない?」
俺は分からなくなった。
「なあ、晴海は暴力とセックスの違いがわかるか。」
晴海はめんどくさそうに俺の方を見た。
「わかるよ。」
「教えてくれ。」
そう言うと晴海は俺の頭に手を回してキスをした。頭を固定して逃げられないようにした上で、口内を蹂躙する。これは、暴力か。それともセックスだろうか。分からない。分からない。暴力とは乱暴で不器用なセックスのことか。セックスとは強く大きな暴力のことか。思考に酸素が奪われていく。息ができないまま、私は晴海に食べられていた。
唇が離れた。必死に息を吸う。晴海も肩で息をしていた。呼吸が荒れたまま、聞く。
「どっち。」
「何が?」
晴海はニコニコしていた。
「今の。暴力かセックスか。」
「今のは、」
俺は言葉を待った。答えが知りたい。安心したい。俺が今までしてきたことは暴力だったのか、セックスだったのか。
「今のは、キス、だよ。」
「セックスじゃん。」
「ううん。」
「じゃあ暴力?」
「ううん。」
「キス。」
「うん。」
そっか、と俺は俯いた。思考がまとまっていく。
「じゃあ、セックスだな。」
晴海は笑顔で言った。
「私も歯形つけていい?」
「だめ。」
俺は立ち上がって料理の続きに戻った。晴海は前腕をさすっていた。
その頃にはもう、さっきのキスは暴力になっていた。




