「許してほしい? 今さらです。虐げられた私は嫁ぎ先で幸せになります」
【前書き】
※花言葉について。
複数の意味を持つ花もあります。
色や状態によって花言葉は変わります。
ここで扱っているのは、ほんの一部です。
「この花の花言葉は違う」と思っても、スルーしてください。
設定はふわふわしてます。
「アドネ様、お姉様とのお茶会など退屈でしょう? お姉様なんかほっといて私と一緒に遊びましょう!」
「アドネ様〜〜! お姉様ったら酷いのよ! 私のドレスに紅茶をかけたの! きっと、私の美しさねたんだのね!」
「アドネ様ったらかわいそう。冴えないお姉様なんかと結婚させられるなんて……」
「アドネ様は、私と結婚した方が幸せなんじゃないかしら」
私には二歳年の離れた妹がいる。
私が婚約してからというもの 、婚約者とのお茶会には必ず同席し、あの手この手で自分を売り込んでいくのだ。
「今日は君の妹はいないんだね」
そうおっしゃったアドネ様の表情は、どこかほっとしているようだった。
アドネ・コフマン様。
名門侯爵家の嫡男で、容姿端麗、文武両道、お人柄もよく、お仕事もできて、ご友人も多い方だ。
面食いの妹が、彼に執着するのもわかる。
「妹は、ご友人から観劇に誘われたらしく、朝から出かけておりますわ」
妹は友人と言っているが、相手は異性、しかも 婚約者がいる。
そのような方と、二人きりで出かけるのはいかがなものかと思う。
アドネに執着しつつ、他の男性にも粉をかけているのだから困った妹だ。
私がいくら注意しても、妹は聞く耳を持たない。
私が注意すると、妹は癇癪を起こし、あることないことを両親に報告する。
両親は私の話を一切聞かず、妹の言葉を信じて、私に罰を与える。
妹に忠告するのも、妹を甘やかす両親にもいい加減うんざりしている。
「じゃあ、今日は君とゆっくり話せるんだね」
アドネが嬉しそうに微笑む。
私は、曖昧な表情で返すことしかできなかった。
確かに、今日は妹はいない。
しかし、妹の息のかかったメイドがガゼボに張り付いているのだ。
彼女たちは、私とアドネの会話を妹に伝えるだろう。
だから迂闊なことは言えない。
「クロタネソウの花が咲きましたの。
ねえ、今日はお花について話さない」
クロタネソウの花言葉は「秘密の言葉」だ。
ここからは 花言葉を使った隠語で話そう、という合図だ。
アドネはすぐに私の言いたいことに気づいて、無言で頷いた。
「妹はアサガオみたいな人なの」
「へー、確かにそんな感じがするね」
アドネ様は植物を育てておられ、花言葉にも詳しい。
対して妹付きのメイドは平民出身のものが多く、学がない。
妹は、自分より賢いメイドが来ると、難癖をつけてクビにしてしまうのだ。
私付きのメイドも、何人辞めさせられたかわからない。
アサガオは良い意味の花言葉があるが、今回は悪い意味の方だ。
相手に「絡みついて離れない」
自分一人では生きていけない、妹はそういう人間だ。
「母は私にアネモネを、父は私にシャスタデイジーの花をくれるの」
私の言葉を聞いて、アドネ様の表情が曇った。
アネモネの花言葉は「見捨てられた」
シャスタデイジーの花言葉は「万事忍耐」
彼らは妹の機嫌を取るために私を見捨て、私に忍耐を強いてきたのだ。
私が耐えればこの家の平和が守られる……彼らはそう思っているのだろう。
私を虐げている自覚すらないのかもしれない。
私の幸せは、この家にはない。
「両親は、妹にはハハコグサやルピナス、白いダリアやバーベナを贈ったわ」
ハハコグサの花言葉は「無償の愛」
ルピナスは「母性愛」
白いダリアは「豊かな愛情」
そして……バーベナは「家族愛」
妹は金色の髪に、青い瞳、美しい容姿を持っていた。
対して私は地味な焦げ茶色の髪に、平凡な容姿。
彼らは無条件に妹を愛し、彼女の言うことを何でも聞いた。
私は両親の愛情が欲しくて、努力した。
だけど勉強や乗馬が上手くなればなるほど、妹は私に嫉妬した。
妹は私を敵視し、妹の機嫌を取るために、両親は私を蔑ろにしたのだ。
思い返したら、なんだか無性に虚しくなってきた。
それが表情に出ていたのだろう。
「君は今でも、両親からバーベナが欲しいと思っているの?」
アドネが心配そうな表情で尋ねてきた。
「いいえ」
私は静かに首を横に振った。
「今は両親から何の花も欲しいとは思わない。
私にはブルースターをくれるアドネ様がいるから」
私は口角あげニコリと笑った。
アドネ様は、嬉しそうに目を細めた。
「ブルースターだけではなく、キキョウも贈るよ。
君がいらないと言っても、贈り続けるよ」
頬が熱い。きっと今、私の顔は真っ赤に色づいているだろう。
ブルースターの花言葉は「幸福な愛」
キキョウの花言葉は「永遠の愛」だ。
そんな風に、ストレートに愛情表現をされると恥ずかしいわ。
傍にメイドが控えてるというのに。
もっとも、メイドたちには花言葉などわからないでしょうけど。
「妹からは、黄色いカーネーションをたくさんもらったわ」
黄色いカーネーションの花言葉は「嫉妬」
彼女は嫉妬にかられ、私のものを何でも奪っていった。
祖父母から誕生日にプレゼントにいただいたブローチ、初めて行った町で買った万年筆、学園で優秀な成績を修めたものに贈られるトロフィー、アドネから贈られたドレスや靴。
数え上げたらきりがない。
妹は忍耐とか我慢という言葉を知らない。欲しいと思ったもの全部奪っていくのだ。
「そう、そんなことがあったんだね……」
アドネは苦しそうに眉間に皺を寄せた。
私のために怒ってくれているのが伝わってくる。
「アドネ様、もし妹に花を贈るならどんな花を贈りますか?」
「そうだな、僕は君の妹にメハジキを贈るよ」
メハジキの花言葉は「無関心」
彼は妹に全く興味がないようね。
この言葉を聞いて安心したわ。
「君がもし、家族に花を贈るとしたら、どんな花を贈るの?」
「そうね。
キンセンカを贈るわ」
キンセンカの花言葉のネガティブな意味は「失望」だ。
「妹から黄色いカーネーションをたくさん頂いて、私の花園にはスカビオサしか咲かなくなってしまったから……」
スカビオサの花言葉は「私は全てを失った」
「君の花園に、スカビオサなんて咲いてないよ。
僕が植えさせたりしない」
アドネは私の目をまっすぐに見つめ、私の手を力強く握った。
それだけで勇気が溢れてくる。
「そうね。
あなたに出会って、スカビオサは一本残らず枯れてしまったわ」
アドネに出会えなかったら、私は本当に全てを失っていただろう。
私から全てを奪っていく妹。 妹だけは可愛がる両親。私に無礼を働いても構わないと思っているメイド。
この家に長くいればいるほど、私は自己肯定感が低くなっていく。
いじめられ、蔑まれ、いないもののように扱われ、最後は壊れてしまっていただろう。
「それにしても君は控えめなんだね。
僕はてっきり、家族や妹にはオトギリソウやアザミを送ると思っていた」
「そんなことしないわ」
オトギリソウの花言葉は「恨み」
アザミの花言葉は「報復」だ。
私は結婚後、彼らと縁を切るつもりだ。
報復とは関心がある相手にすることだ。
愛情の反対は無関心。
彼らがどうなろうと、私には興味も関心もない。
「だって、彼らにはメハジキを送りたい気分だから」
メハジキの花言葉は「無関心」
「そう、その方がいい。君には似合ってる」
父も母もあまり優秀な人ではない。
領地経営や、使用人の給料の計算、その他の雑事を私がこなしている。
私が幼い頃は、祖父母や家令が領地経営などをこなしていた。
数年前に、祖父母は亡くなり、家令も高齢により退職した。
だから、私がいなくなったあと、この家の仕事は回らなくなるだろう。
だけどそんなこと、私が知ったことではない。
「妹と両親はオダマキのような人たちなの」
オダマキの花言葉は「愚か」
これ以上ないくらい、彼らにふさわしい言葉だ。
「結婚後、もし彼らからヒヤシンスを贈られることがあっても、私は受け取らないわ」
ヒヤシンスの花言葉は「許してください」
家が傾いてから、私の価値に気付き、謝罪しても遅いのだ。
彼らに、長年虐げられた心の傷は消えないのだから。
「君が嫁いで来たら、庭にムスカリの花と苺を植えるよ。
君にはそういう花が似合っている」
ムスカリの花言葉は「明るい未来」
苺の花は「幸せな家庭」だ。
「そうね、ムスカリと苺は私も好きだわ」
私がふわりと微笑むと、彼も柔らかな笑みを浮かべた。
この人となら、幸せな家庭を築けると確信した。
その日のお茶会は、終始和やかに進んだ。
妹がいないとこんなにも静かなのだと、改めて思い知らされた。
私たちの話を聞いていたメイドは、帰宅した妹に、お茶会での出来事を伝えたようだ。
メイドは、花言葉の意味どころか、花の名前すら正確に覚えてなかったらしく、「花の話をしていました」としか伝えられなかったみたいだけど。
私は結婚式を待たずに家を出た。
私の境遇を知ったアドネが、実家で暮らす私の身を案じてくれたのだ。
私も実家にいたくなかったので助かった。
結婚式には一応、両親と妹も招待した。
両親は「結婚前に婚約者の家に住むなど体裁が……」と、ぼやいていたが無視した。
妹は「お姉様と結婚してもアドネ様は幸せになれないわ! 今からでも代わって!」とアドネ様に擦り寄ってきたので、強制的に退場させられた。
結婚式の後も、妹がしつこく侯爵家を訪ねてきたが門前払いした。
妹は本当にアサガオみたいな女だ。
彼らは繁殖力が強く、放っておくと他の植物を覆い尽くし、日光を独占。
周囲の植物へ害を与えるのだ。
アサガオの花が可愛らしいからといって、その見た目に騙されてはいけない。
しばらくして、今度は両親が訪ねてきた。
私がいなくなって初めて、誰が伯爵家の仕事をこなしていたのか、理解したらしい。
「頼む! 私たちが悪かった! 少しの間、家に戻って仕事をしてくれ!」と泣きついてきた。
父は「お前がいないと、仕事が進まないんだ! 引き継ぎが決まるまででいい! 帰ってきてくれ!」と喚き立て。
母は「エマが癇癪を起こして大変なの! あなたが宥めてあげて!」と叫んでいた。
そんな彼らを見ても、私の心は一つも動かなかった。
私は使用人に、両親に綿毛のついたたんぽぽを渡すように伝えた。
彼らは、私の贈った花の意味などわからないだろう。
謝罪? 今さらだわ。
綿毛のたんぽぽの花言葉は「別離」
綿毛のようにふわっと飛んでいった私を、もう捕まえようとしないでくださいね。
――終わり――
読んで下さりありがとうございます。
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※作中出てこなかった主人公の名前は「ナディナ」です。




