『日本改造計画外電』その弐拾陸<日本人の米消費量増加手段>
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、宮内庁長官だ。
「本日は、お招きに預かり、恐縮の至り。何なりとお申し付けくださいませ。」
こうして、へりくだった挨拶をする事も彼の仕事だ。謹んで拝領する。
「大変ご丁寧な挨拶、感銘の至り。まずは、本題に入りましょう。」
「はい。何なりと。総統閣下。」
「今回の命題は、日本農業を原点回帰させる事です。」
「『原点回帰』……ですか? 具体的には如何なものでしょう。総統閣下。」
「その前に、日本農業生産品と言えばなんでしょう。長官。」
「それは、何と言っても米でしょう。日本人の主食ですよ。総統閣下。」
「然り。弥生時代……数千年続く日本の伝統です。が、近年はどうでしょう。」
「……ひょっとして、減反政策のお話でしょうか。総統閣下。」
「然り。確かに二次大戦後の日本人は、米消費量を右肩下がりにしてきました。
私に言わせれば。嘆かわしい限りですよ。そう思いませんか。」
「日本人にとっても食の多様性が、もたらされた訳ですか。
私の様な古い人間にとっては、白米こそ主食だと信じております。総統閣下。」
「然り。それ故の『原点回帰』。日本人の主食は、米が主役、小麦や芋等は脇役。
その様に日本人の意識改革をする必要が、あります。」
「……分かります。食の多様性を尊重しつつも、米を主役に据える。
総統閣下の仰る事、分かります。して、具体的には、如何なさいます。」
「こういう時は、上に立つ者が、率先して行うのですよ。長官。」
「……上に……立つ者……まさか、陛下ですか! 総統閣下。」
「然り。そこで、陛下のお食事献立内容を公表して下さい。
更に、陛下が、白米を美味しそうに召し上がる動画も公表して下さい。」
「……分かります。が、それで上手くいくでしょうか。総統閣下。」
「お気持ちは、察します。そこで、まず実験しましょう。
その結果によって、どれだけ上手くいくのか、数字で計測できましょう。」
「……分かります。が、実験とは、具体的に如何致しましょう。総統閣下。」
「実は、『美食遊会』から鰻をご馳走して下さるとの打診がありました。」
「はい。仰る通りです。準備は万端整えてございます。総統閣下。」
「その際の献立内容を公表して下さい。更に、陛下による実食動画もです。」
「それで、上手くいくでしょうか。総統閣下。」
「私の予想では、小売店、鰻を提供する飲食店から鰻が売り切れます。
そこで、長官の役割ですが、陛下と『美食遊会』に了承させて下さい。」
「分かりました。『陛下の献立内容並びに実食動画の撮影公表の手筈です。』
以上、復唱致しました。総統閣下。」
「大変結構です。他に質問はありませんか。」
特になかったので、今回のリモート会議は、お開きとなった。
* * *
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、宮内庁長官だ。
平常運転の挨拶を済ませ、いざ本題となった。
「報告申し上げます。『美食遊会』の協力の元、件の情報開示を実施致しました。」
「はい。存じておりますよ。その結果も併せてお願いします。長官。」
「……それが、総統閣下の予想通り、日本全国で鰻が、売り切れるほど売れました。
天皇皇后陛下並びに上皇上皇后陛下のお食事動画公開後、劇的に売れたのです。
小売店、飲食店では、鰻が売り切れる店舗が、九割以上とのことでした。
まさしく、ご慧眼御見それ致しました。総統閣下。」
「一つ、訂正しましょう。『慧眼』など存在しませんよ。長官。」
「しっ……しかし、結果が全てではございませんか。総統閣下。」
「時に、初代中村屋さんをご存じですか。長官。」
「……はい……存じております。確か、あんパンの発明者ですね。総統閣下。」
「然り。彼はフランスで、パン作りの修業をし、帰国後日本でその腕を振るいました。
その際に、日本人に好まれるパンと言う命題の元、あんパンの発明に至った。
そのあんパンの売り込み戦略として、彼がとった手段はなんでしたか。長官。」
「……はっ、それは明治天皇陛下にご献上されたのですね。」
「然り。更に、召し上がった陛下より『美味しい』との言質を頂戴しました。
その事実は、新聞社に発表され、新聞記事として掲載されました。
その後どうなりましたかね。長官。」
「……はっ、あんパンは、飛ぶように売れ、中村屋の人気商品となりました。」
「然り。私は『故事』に基いたまでの事、『慧眼』など存在しませんよ。
ですが、一つ付け加えるとしたら、日本人気質とは、『ミーハー』です。長官。」
「……『ミーハー』……ですか。」
「つまり、日本人気質とは、『物真似好き』。そう言えば小耳に挟みました。
某洋菓子屋の広告塔に就任した棋士は、無料でケーキ食べ放題なのですよ。
その際に、洋菓子屋が、本日棋士の方が、注文したケーキを発表します。
すると、どうなるか、ご存じですよね。長官。」
「はい。そのケーキが、飛ぶように売れるのですね。総統閣下。」
「然り。全ては、『故事』。前例です。慧眼とは、長官の事を指し示します。」
「いえいえ、私などその様な表現には、適しません。総統閣下。」
「私が、言っているのは、長官が陛下を説き伏せる際、使った言葉ですよ。
『国民との距離を縮める為。』お陰で、陛下もご了承頂きました。
素晴らしい言葉です。長官。」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます。総統閣下。」
「では、そろそろ私の二の矢を指示します。」
「はっ。何なりと。総統閣下。」
「今後も陛下の献立内容と、お食事動画の撮影公表して下さい。
時には、粗食の献立も必要ですね。お願いしますよ。長官。」
「粗食と仰いますと、如何なるものでしょうか。総統閣下。」
「例を挙げるなら、鰯や鯖などの下魚、卵かけご飯、掛け蕎麦などです。」
「! 陛下の食卓にその様なものをですか。総統閣下。」
「そうすれば、今まで如何に『贅沢な食事』をしてきたか知る事になるでしょう。」
「……確かに、仰る通り。日本人の意識改革とは、流石です。総統閣下。」
「では、復唱して下さい。長官。」
「はっ。『陛下の献立内容と、お食事動画の撮影公表。粗食の献立も含む。』
以上、復唱致しました。総統閣下。」
「大変結構です。他に質問はありませんか。」
特になかったので、今回のリモート会議は、お開きとなった。
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