7話 奇襲上陸
8月16日2300 演習場宿営地
我々は捕虜と筑摩曹長の遺体とともに帰隊した。
皆、ひどく疲弊した顔をしていた。
中には泣き出しそうな者もいた。
筑摩曹長は怒りっぽいが
中隊のムードメーカーでもあり
その存在はでかかった。
心にぽっかり穴が開いた様に感じるのは
私だけではないはずだ。
ボイルされた携帯糧食が届き
腹が減り疲れているはずなのに
どうにも食事が喉を通らなかった。
「おい、飯は食べとけよ
次はいつ食えるかわかんねぇからな」
隣に霞2曹が座り飯を食べ始める。
別に喋る事もないが、隣にいるだけで
少しほっとする。
そう思うのは霞2曹が教育隊からの同期で
かれこれ10年以上一緒にいるからだろう。
「霞、お前は平気なのか?」
「何が?筑摩曹長が死んだ事か?
そりゃあ、悲しいさ」
「随分鍛えられたからな
いい人だったよ、だが……」
「冷たい様に聞こえるかもしれないが
あんまり気にするな
多分それがこの状況じゃ、正しい」
「ごちゃごちゃ考えすぎなんだよ、
長門、お前はな」
「明日だって何時から開始か
わからないんだ、
だから、さっさと飯は食っとけ」
霞2曹は呆れるほど短絡的な考え方だが
その分単純明快だ。
私のようにいちいち物事の意味を考える
タイプではなかった。
その言葉に従って私も飯を食べる事が出来た。
8月17日0000 演習場宿営地
宿営に帰って以降姿を見せなかった
紀伊3尉が帰ってくる。
その姿はやつれており
生気を失っているような気配だ。
「小隊、集まってくれ
ミーティングを始める」
「まずは、殉職された筑摩曹長に
冥福を祈ろう。」
「葬儀はどうなるんです?」
「残念ながらそれどころではない
葬儀については後日だ。
我々は作戦行動を続けるとの事だ」
紀伊3尉がため息をつく
とても深いものだ。
普段なら絶対にそんな姿は見せない。
「ご意見番がいないとどうにも
締まらないね」
ご意見番、筑摩曹長のことだ。
「捕虜からの情報だが
彼らは我々のスマホの位置を捕捉して
レーダーの様に活用していたようだ。」
「我々の小隊は筑摩曹長の進言で
スマホを持っていなかった。」
「だから敵が気づくのに遅れて
我々が捕虜を捕らえる事が出来た」
「筑摩曹長……」
この中の誰もが彼に怒鳴られ
また、励まされた経験があった。
死んでしまってはもうそういう事は
2度とないのだ。
小隊全員が沈黙する。
「悪いが、状況は最悪だ。
悲しんでいる場合ではない」
「四国に中国の大規模部隊が上陸した。
その数、約3万」
皆に衝撃が走った。
岡山に上陸したと示された人数は100名。
それとは比べものにならない部隊が
四国に上陸していた。
四国には大規模な自衛隊部隊がいない。
概ねの仮想敵国が中国とロシアの自衛隊にとって
主に防衛線は日本海側と北海道だと考えられている。
四国は日本国内では日本海側には面しておらず
その部隊運用は中国地方の防衛線の予備部隊という
位置づけである。
本来、中国人民軍からの大規模上陸の想定は
米軍が常駐する沖縄か
危機意識が高く、
陸自の精鋭部隊、西部方面普通科連隊を内包する
九州だ。
しかし、保有する戦力の高い地域を
中国軍は無視し
真っ先に四国を狙ってきた。
しかも陽動を使い本来常駐しているはずの部隊を
吐き出させた上で。
四国は自衛隊の防衛網の穴だった。
我々は裏をかかれたのだ。
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