エピローグ 擦れた桜章
病室の扉が開き
妻の楓の顔と
娘の美樹の姿が現れる。
一年ぶりの再会だった。
お互いの姿を確認して
その目には涙が溢れていた。
それは私も同じだった。
「アナタ……
お帰りなさい」
楓が私に伝える。
「おとうさん、おかえりなさい!」
娘の美樹が私に伝える。
「ああ……
ただいま……」
私達は互いを確かめ合うように
抱きしめ合った。
私は家族に会えるこの日を
どれだけ待ちわびたかわからなかった。
美樹はしばらく見ない間にまた少し
大きくなったようだった。
ようやく私はもとの日常に戻って
きた事を実感していた。
しばらく話した後
一緒に食事をとり食卓を囲んだ。
何気ない食事がこれほど
嬉しく感じた事はなかった。
食事が終わりひと段落すると
楓はカバンから何かを
取り出した。
「そういえば、アナタこれ
霞さんから預かっていたの」
妻がカバンから出したものは
自衛官の身分証明書だった。
肌身離さず持ち歩いていた
革製の身分証明書入れの
桜章と文字は
擦りきれて見えなくなっていた。
その姿はまるで
自分自身を暗示
しているように感じた。
左腕はなくなり
もう戦う事は出来なくなった。
それでも、もう一度
この身分証を受け取る
必要があるのだろうか?
「霞さんからの伝言を
受け取ってるわ」
「自衛隊に戻って来いって。
戦えないかもしれない。
けど、お前ほど国に尽くした
自衛官はいないって」
「元気になったら居場所を用意するから
また、一緒に働こうって」
「戦争を生き抜いたお前には
まだ役割があるはずだと
伝えてくれと頼まれたわ」
「………そうか」
私は自衛官の身分証を
そっと受け取った。
桜章をそっと指でなぞる。
戦争で疲弊した日本は
今後どうなるか分からない。
だが、戦後の日本が再び栄華を
取り戻した様に
またやり直せばいい。
もし、私に役割があるの
であればそれに殉じよう。
たとえ擦りきれてなくなったとしても
桜はまた咲く。
完
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