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第23章:GAFAとの共生

高虫が官邸を去って10年。

かつて日本市場の生殺与奪の権を握っていたGAFAは、その様相を大きく変えていた。彼らはもはや、日本を一方的に支配する「黒船」ではなかった。手強く、しかし敬意を払うべき「競争相手」であり、そして、ある領域においては、不可欠な「パートナー」となっていた。


その象徴的な光景が、北海道の広大な石狩平野に広がっていた。

地平線まで続くかのような、巨大なソーラーパネル群。その隣には、雪のように白い、巨大な直方体の建物が、静かに佇んでいる。10年前にABCD社が建設を約束した、アジア最大級のデータセンターだ。


このデータセンターが、なぜ北海道に建設されたのか。それは、高虫が提示した厳しい「条件」があったからだ。


『データセンターの稼働に必要な電力は、100%、再生可能エネルギーで賄うこと』

冷涼な気候と広大な土地を持つ北海道は、太陽光発電と、地熱発電のポテンシャルが極めて高い。ABCD社は、データセンター建設と同時に、大規模なエネルギー開発を行うことで、この条件をクリアしたのだ。


その結果、北海道は、日本の「グリーンエネルギー革命」の中心地となった。データセンターから生まれる安定した雇用と、エネルギー産業からの税収で、かつて過疎化に喘いでいた地域は、日本で最も豊かな場所の一つへと生まれ変わっていた。


データセンターの内部では、かつての敵同士が、机を並べて働いていた。

ABCD社のエンジニアと、日本の大手通信会社の技術者、そして、安野貴が育てた『YATAGARASU』の若きセキュリティ専門家たち。彼らは、このデータセンターを、米中のサイバー攻撃から共に守り抜く、一つのチームだった。


「ヘイ、タナカ。昨夜のDDoS攻撃、見事な対応だったな。あのパターンを、どうやって予測したんだ?」


「君たちのAIの異常検知ログに、ほんの少しだけ、違和感があったんだよ。ジョン」


国籍も、所属も違う。だが、彼らの間には、共通の脅威に立ち向かう同志としての、確かな信頼関係が生まれていた。

GAFAと日本の関係は、他の分野でも、新たな「共生」の形を模索していた。


夏目響が開発したAI翻訳『KOTOBA』。その技術は、あまりに画期的だったため、GAFAの一角である、世界最大の検索エンジン企業が、自社のサービスに採用したいと申し入れてきた。


かつてであれば、それは「買収」という形で、日本の技術が、一方的に吸い上げられて終わっていただろう。

だが、夏目は、彼らと対等な立場で交渉した。


「技術は提供します。ただし、ライセンス契約です。そして、その技術から得られた、いかなるデータも、日本の法律の下で管理させていただく。それが、条件です」


交渉は、難航を極めた。

しかし、最終的に折れたのは、GAFAの方だった。彼らは、日本のデータ主権を認めなければ、最高のイノベーションを手に入れることができない、という現実を、10年かけて、ようやく学んだのだ。


もはや、GAFAは、一枚岩の帝国ではなかった。

ある企業は、日本のルールを受け入れ、良きパートナーとなった。

またある企業は、日本の新興企業との激しい競争に敗れ、市場から撤退していった。


高虫が目指した、「選択と集中」。

それは、単に予算を集中させるという意味だけではなかった。

海外の巨大な才能や資本を、ただ闇雲に拒絶するのではない。


日本の国益になるものは、敬意をもって受け入れ、パートナーとなる。

日本の主権を脅かすものは、断固として戦い、あるいは市場から退場させる。

その「選択」を、日本が自らの意志で行えるようになったこと。


それこそが、高虫が勝ち取った、最も偉大な勝利だったのかもしれない。

かつての黒船は、今や、日本の港のルールに従い、互恵的な貿易を行う、数ある外国船の一つとなっていた。


そして、その港には、GAEFAをも脅かす、新たな才能を乗せた、日本の若者たちの船が、次々と錨を上げていた。

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