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3.もう後悔したくない

 駆けて間に合う距離じゃない。

「らぁあああっ!」

 なので、大閃光警棒を乱れ投擲した。

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。

 実際、狼の顔に数本が当たり、その光に警戒したのか飛び退って距離をとってる。

「先輩! 立って! 逃げて!」

 ハッとして先輩が必死に立ち上がった。

 そのまま転びそうになりながらも避難所へ駆け出した。

 避難所まで行けば結界が張ってある。

「私も逃げなきゃ」

 もちろん、

 ――グルル……。

 この犬っころどうにか撒いてからね!

「ひっ」

「!?」

 ウソ! まだ人いた!?

 怯えた声に反射的に視線を声の方に向けたのは私だけじゃない。

「っ、くそったれええぇぇっ!」

 狼の照準がその声の主に移る。

 ひるんだら負けなのに!

 走りながら即座にポケットに手を突っ込み、取り出したものを手に嵌める。

 狼より私の方がまだ声の主に近い。

 そんなアドバンテージは一瞬で無に帰す。

 だから、

「うおらぁあああ!!」

 声の主に駆け寄るのではなく、狼の横から滑り込むように近づき、飛び掛かる動作の瞬間。

 狼の顎下から全力のアッパーカットをお見舞いした。

 ――ギャッ!?

 そんな声と共に、雷撃をまとった拳の一撃に狼が体勢を崩して地面に転がった。

 まあ、そんくらいじゃ死なないんだけどね!

「失せろっ! 犬っころがっ!」

 裂帛の気合いと共に、

 ガキン! と両拳をぶつけ合わせれば、バチチッ! と雷光が拳の周りで光る。

 たじろぐように立ち上がった狼が後ろに下がる。

 睨み合いに死に物狂いで殺気を込める。

 こいつが下がらなきゃこっちが死ぬ。

 下がれ、下がれ下がれ!

 体感的には途方もなく長い気がしたけど、実際は瞬き同然だっんだろう。

 狼が身を翻して逃げ去った。

 視界からその姿が消えて、やっと息を吐き出す。

「あ、あの、助けて、くれて、ああ、あり、あり」

 怯え混じりの声が背後から。その怯え、狼に向けてるよね? 私にじゃないよね?

 あんまり確かめたく無かったけど、怪我してないか確認も必要だったので振り返る。

「ああ、いえ。お怪我はありませんか?」

 座り込んでこちらを見上げていたのは青年だった。

 えり足だけ長めの紫紺の髪が少しボサッとして、レンズ厚めの黒縁メガネ。

 黒いニットセーターに白いジーンズ、黒い革靴。白い首や手足に怪我らしいものは見当たらない。

 オドオドしてカタカタと震えていた。

 腰が抜けたのか立てないようだったが、そのままではまたいつ襲われるかわかったもんじゃない。

「手を貸します。立てますか?」

「あり、がとう、ございます」

 白く綺麗な手は大きく少し骨張っていた。

 私の手に触れる直前で何故かその手が止まったので、嗚呼と付け加える。

「大丈夫ですよ。拳を握り込まないと発動しませんから」

 ホッとしたように青年の顔が緩んだので予想は当たったようだ。

 警備員の自衛用具。前世でいう所のスタンガン的なビリビリが出る指出し革手袋型ガントレット。

 規則でもあるけど、携帯しといて良かった〜。

 手を貸して引き起こした青年の身長は意外と高かった。けど、ちょっと猫背。

 オドオドした様子と相まって色々残念な気がする。

(あー。何かコミュ障っぽいなぁ)

 それはそれとして。

「避難所へ行きましょう。警邏隊が来るまではひとまず結界の中へ」

「は、はい」

 駆け足で避難所へと向かおうとした私の手を、何故か青年が掴む。

「あの、何ですか」

「あ……ご、ごめんなさい! その、あ、頭」

 青年がポケットから白いハンカチを取り出して差し出してくる。

「よ、弱い、ですけど、治癒魔法が、掛けてあるので」

 そう言えば、スタンピードが始まった時に何か爆発も起きて、何かが頭に当たって気絶したんだった。

 無我夢中過ぎて忘れてた。それどころじゃなかったし。

「ありがとうございます。これだけ動けているので大丈夫だと思うんですけど、念のためお借りしますね」

 礼を言って受け取ると、青年の雰囲気が完全に緩んだ。

 ハンカチを頭の傷口に当てるとほんのりと温かくなる。青年の言う通り治癒魔法が発動したんだろう。

「あの、こちらお幾らでしたか?」

「い、いいえ! 助けて頂いたのは、僕なので! あの、気にしないで、下さい」

 いや、魔法付与されてるものって結構するし、そんなのを貰うのは気が引けるし見ず知らずの人だから微妙にそういうの気持ち悪いし!

「それより、急ぎましょう」

「あとで支払うので、教えて下さいね!」

 青年の言う事ももっともなので、今度こそ避難所へと駆け出した。

 避難所に近づくと、予想より早く警邏隊が到着しており、会場の警備に当たっていた人員も得物を手にして応戦していた。

 とりあえず青年を結界に押し込み、警備本部に向かう。

「あ! まっ、て」

「すみません、ハンカチ代、警備宛に請求して下さい!」

 後ろから引き止めるような青年の声にそう返して、駆ける。





 私達は漫画の舞台装置じゃない。生きてるんだから。

 記憶を取り戻してから、何かがハマりかけている。前世界の私と、今の私をつなぐラインが出来つつある感じがする。


ほんのり脳筋ゴリラ系主人公を応援しても良いよって思ったら、評価頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

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