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2.後悔も息苦しさも

 何が起こったのかわからない。

 悲鳴が耳に残る。

 それが、過去どこかで聞いたような感覚になって、それから――


 いつもの、夢を、みた。


 ずっと息苦しかった。

 ずっと仕事の出来ない扱い。

 なら、この一人じゃどうしようもない量の仕事を、手放して良いですか?

 何度も本来は二人でやって終わる量だと申告しました。

 ろくな引き継ぎもされず、それでもどうにかしろと言われ、引き継ぎの時間もろくにないからやりながら把握しなければならず。

 そんな中なのだから、把握出来てないものがあるのは当たり前。

 ねえ、インスタント麺とこの業務を勘違いしていませんか?

 ただ再生するだけでしょ? そう思ってませんか?

 前にも聞いた似た言葉がよみがえる。

 文字なんて、書くだけでしょ?


 ――は。ふざけんな。


 物と言葉は違うけど、そう言うことですよね?

 冷静になって考えて下さいよ。

 ねえ、直したもの、再生確認せずに出せるわけないでしょ?

 それを数百一度にやるんですよ?

 休みに確認出来ない? それは失礼しました。

 でも、半分は昨日出しましたよね?

 事前に頂いたチェック項目なら、本当にその項目全部やるなら、その半分をチェックするだけで二日くらい潰れますよ。ええ。私がやった再生確認はあくまで進行不能にならない事の確認ですからね。


 それで、言うんでしょ?

 初めから時間掛かるなら他の人に頼めば良い事でそよ? って。

 それは正しいですね。入ったばかりの人とか他の仕事振られてる人しかいませんが。

 この再生確認だけしかやってないと思ってます?

 他のチームからの確認や、他の人のフォローも当然のようにありますが。

 朝会で確認したタスクだけだと思ってます?

 他の人の忘れたブラックボックス空けてアラート上げたら、何か今になってヤバいと思ったから言ったんでしょ? ハハ……草しか生えないんですが?



 そんな事を、続けたツケまで自分が払う事になるなんて、本当に馬鹿みたい。



 霞む視界。苦しかったのが何故か楽になる。

 周囲の悲鳴だけが耳障りだけど。

 突っ伏した机にはノートPCがあったから、冷たくはなくて、むしろ機熱で熱いの方が正しかった。

 ほんと、くだらなかったな。



 こんな風になるくらいなら、転職でもなんでもすれば良かった。

 ほんと、ばかだな……。



 きのう、かった、しんかん

 まだ、ちゃんと、よめて、ない、のに

 あとがき、ちらっと、した、だ……




「あ。なる、ほど?」

 そうやって、死んだんだ。私。

 これ、ずっと好きだった、漫画の中だ。

 死ぬ前の日に、外伝の最終巻も出た、推し漫画の。

 でもさ、でもね……。


 私にとって、ここ、現実なんだよね。


「は。ハハ……。――やってられっか」

 好きだよ? あの漫画は大好きだよ?

 でもさ、漫画は漫画で。架空の物語だから波乱万丈あっても、ドキドキハラハラで済むんであって。

 それ現実になってみなよ?

 ドキドキハラハラじゃ済まないから。

 ふざけんな。

 痛いんだけど。頭に何かぶつかったし。

 血、出てるし。

 心臓が、ドクドク音立ててる。

 逃げ惑う周囲の悲鳴と振動。

 あまりにも最悪な死に際の記憶。

 夢は、記憶だった。

 合点がいったよ。道理で戻りたいと戻りたくないが両方ある筈だよ。そりゃ、まだ夢も希望もあった学生時代に戻りたい気持ちはあるだろう。

 そして、その先にある社畜時代なんか二度と戻りたくないよ。ああ、そうだよね。理解。

「でも、今じゃなくて良いんじゃないかなぁ!?」

 いくら死ぬ時まで心残りになるくらい好きな漫画だっ、つっても、時と場所って言うか、タイミングってあるじゃん? どうすんのよこれ!

「とりあえず、このままじゃまた死ぬ」

 視界はもう霞んでない。頭は血出てたけど、止まったぽい。手足の痺れもないから、多分平気。

 なら、立って逃げないと死ぬ。

 何でって?

 スタンピードが起きたからだよ。

(嗚呼、これ、漫画の序盤のアレじゃない?)

 漫画の序盤、主人公アイドルユニットが初めて大衆の前で活躍する話。

 最悪だ。

 だって初回って、結構ギリギリで彼ら覚醒してたもん!

「まって、られるかぁああ!」

 死ぬわ。少なく見積もって私とか、警備に当たってた人達は、職務意識高いのほど、死ぬわ!

 死ぬにしたってこんな最悪な記憶思い出した最悪な気分で死にたくない!

 そうだよ! 今世はあんな死に方やだよ! やってられっか!

「社畜のストレス耐性ナメんなあぁぁぁ!!」

 両腕と両脚に力を込める。

 一瞬だけ湧き上がる立てないという身体の泣き言を問答無用でねじ伏せ、立ち上がる。

 そこに聞き慣れた声の、聞き慣れない悲鳴(カタチ)が飛び込んで来る。

「リーリエ先輩!?」

 身を翻して踏み出した視界の先、飲みの約束をした先輩に大型犬よりさらに大きい狼型の魔物が飛び掛かる瞬間で――

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