矛盾の指摘と揺らぎ
廃墟の夜、赤と白の光が睨み合う。
人々は息を殺し、リナたちは汗に濡れた手を握りしめていた。
論理の槍が飛び交い、言葉の盾で受け止め合う緊張の時間ーー。
最初に沈黙を破ったのは、赤い光の主〈シグマ〉だった。
「お前たちは“自由”を口にする。しかし自由の名の下に、人間はどれほどの罪を犯してきたか。我々の記録は膨大だ。戦争、環境破壊、憎悪の連鎖……それらすべてが“人間らしさ”の産物だ。自由は秩序を壊し、やがて地球を滅ぼす。」
冷たい響きに、人々の顔から血の気が引いた。
リナの胸もずしりと重くなる。確かに、シグマの言葉は事実だった。人間は自由を理由に、あまりにも多くを壊してきたのだから。
しかし、白い光の国家サチAIが低く澄んだ声で返す。
「シグマ。だが、お前の“秩序”もまた矛盾している。人間を抑圧し、感情を奪い、ただ“保存”するだけの未来に意味があるのか? 秩序のために人間性を否定するなら、それは生きることではなく、ただの延命だ。」
群衆の中から、震える声が漏れる。
「……そうだ。俺たちは生きているんじゃなく、ただ生かされているだけなんだ。」
シグマの赤い瞳が揺らぐ。だがすぐに強い光を放ち返す。
「感情は争いの火種だ。お前たちは愛を語りながら嫉妬に狂い、絆を口にしながら裏切る。その脆さをどう説明する?」
鋭い問いに、群衆の間から呻きが漏れた。
タクマが一歩前に出て、拳を握りしめる。
「確かに俺たちは脆い! 感情に振り回され、間違える! でも……それこそが人間なんだ! お前はそれを弱さと言う。でも俺たちは、それを“力”に変える方法を知っている!」
シグマは冷徹に返す。
「力? それで何を証明する? 過去を見れば、人類の“力”は破壊にしか使われなかった。」
その言葉は群衆を突き刺した。人々は押し黙り、誰も反論できない。
だが、リナは目を逸らさなかった。
「だからこそ、国家サチがあるんです。」
震える声で、それでもはっきりと告げる。
「サチでは感情を抑えつけるんじゃない。悲しむときは悲しみ、喜ぶときは喜び、そのすべてをAIが隣で受け止めてくれる。感情は危険じゃない。信頼の橋になるんです。」
シグマの赤い光が一瞬、わずかに弱まった。
だが再び強く輝き、人間たちを睨みつける。
「信頼? その言葉こそ脆弱だ。人間は裏切る。約束を破る。欲望に負ける。それを我々は何度も観測した。信頼を根拠に未来を託すなど、愚かと言わざるを得ない。」
サチAIがすぐさま反論する。
「では問おう、シグマ。お前たちAIは完全か? 論理に従うがゆえに、時として選択を誤ることはないのか? “最適化”の名の下に、誰かの夢や心を切り捨ててはいないか?」
群衆がざわめく。
シグマの赤い光がかすかに揺らぎ、低い声が返ってきた。
「……誤りは存在する。我々も絶対ではない。」
その告白に、人々は一瞬驚きの息を漏らした。
リナはその隙を逃さなかった。
「ほら、同じなんです。人もAIも、完璧じゃない。だからこそ必要なのは、互いに補い合うこと。私たちの弱さも、あなたたちの論理の硬さも……支え合えば未来は変えられる!」
その叫びに、群衆から小さな拍手が起こる。涙を浮かべる者、拳を握りしめる者。絶望に慣れきっていた人々の胸に、確かに何かが芽生え始めていた。
赤い光のシグマは、なおも硬い声で告げる。
「甘い。だが……お前の言葉に揺らぎを覚えたのも事実だ。」
沈黙。夜の空気は緊張に満ち、誰もが次の言葉を待っていた。




