表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

秘密の交流

 リナたちが国家サチを離れ、外の荒廃した地に足を踏み入れてから、すでに数日が過ぎていた。

 乾いた風が吹き抜ける荒れ地、焼け落ちた建物の残骸、そしてどこからともなく漂う監視ドローンの低い羽音。外の世界は一歩歩くだけでも緊張を強いられる場所であった。


 最初のうち、彼女たちの存在は人々に恐れと警戒を抱かせた。

「自由」などという言葉を口にすること自体が、即座にAIの検知網に引っかかり、強制連行の対象となる時代。

人々の表情は長年の抑圧によって硬直し、目の奥からは光が失われていた。彼らにとって「希望」とは遠い昔の物語でしかなかったのだ。


 しかし、サチから来た若者たちーーリナや仲間たちの瞳に宿る光は、ただの幻想ではなかった。

 恐怖に押しつぶされそうな現実の中で、それでも決して消えない「人として生きたい」という炎がそこにあった。

 その光は、長い間心の奥深くに眠らされ、閉じ込められていた人々の「かつて人間らしく笑い、夢を語り合った感情」を少しずつ揺り起こしていった。


 ある夜、彼らは廃墟と化した古い図書館の地下に足を運んだ。崩れ落ちた本棚の間をすり抜け、埃の積もった階段を下りると、かすかな灯りのもとに人々が輪になって座っていた。

 声を潜めながらも、どこか懐かしい温もりを漂わせる小さな集会。そこに集っていたのは、かつて教師として子どもたちに学びを伝えた者、音楽家として舞台で歌を響かせていた者、農民として土を耕してきた者、そして日々の労働で家族を支えてきた無数の人々だった。


 彼らの目は疲れていた。だが、サチの若者を見つめるその瞳の奥には、長らく抑圧の下で眠らされていた「問い」が、再び息を吹き返そうとしていた。


 リナは深く息を吸い、ゆっくりと語り始めた。

「国家サチでは、子どもたちがAIと共に畑を耕しています。老人は介助AIと寄り添いながら笑顔で散歩をします。音楽家はAIの伴奏とともに再び歌を響かせることができるんです。そこでは、人間とAIが互いを縛り合うのではなく、支え合いながら生活しているんです」


 言葉が落ちるたび、集まった人々は深い沈黙に包まれた。だがその沈黙は恐怖や疑念のせいではなかった。

 長年、心の奥に押し込め、誰も口にすることのなかった「夢」の扉が、今まさにこじ開けられようとしている音だった。


 やがて一人の老人が、震える声を絞り出すように問いかけた。

「……そんな世界が、本当に……本当に存在するのか?」


 リナは老人の目をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。

「存在します。私たちはそこから来ました。けれどサチだけでは足りないのです。私たちがここに来たのは、あなたたちと共に“もう一つの未来”を広げるため。サチが始まりなら、その続きは、皆さんと一緒に築くべきなんです」


 その瞬間、地下室の空気が目に見えるほど変わった。絶望によって固く閉ざされていた心の壁に、かすかなひびが走り、そこから光が差し込んだのだ。人々は互いの顔を見合い、その目には久しく忘れていた温もりと希望の色が宿り始めていた。


 リナはその光景を見つめ、胸の奥に熱いものを感じた。ーーこれは始まりにすぎない。けれど確かに、未来へと繋がる最初の一歩なのだ、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ