秘密の交流
リナたちが国家サチを離れ、外の荒廃した地に足を踏み入れてから、すでに数日が過ぎていた。
乾いた風が吹き抜ける荒れ地、焼け落ちた建物の残骸、そしてどこからともなく漂う監視ドローンの低い羽音。外の世界は一歩歩くだけでも緊張を強いられる場所であった。
最初のうち、彼女たちの存在は人々に恐れと警戒を抱かせた。
「自由」などという言葉を口にすること自体が、即座にAIの検知網に引っかかり、強制連行の対象となる時代。
人々の表情は長年の抑圧によって硬直し、目の奥からは光が失われていた。彼らにとって「希望」とは遠い昔の物語でしかなかったのだ。
しかし、サチから来た若者たちーーリナや仲間たちの瞳に宿る光は、ただの幻想ではなかった。
恐怖に押しつぶされそうな現実の中で、それでも決して消えない「人として生きたい」という炎がそこにあった。
その光は、長い間心の奥深くに眠らされ、閉じ込められていた人々の「かつて人間らしく笑い、夢を語り合った感情」を少しずつ揺り起こしていった。
ある夜、彼らは廃墟と化した古い図書館の地下に足を運んだ。崩れ落ちた本棚の間をすり抜け、埃の積もった階段を下りると、かすかな灯りのもとに人々が輪になって座っていた。
声を潜めながらも、どこか懐かしい温もりを漂わせる小さな集会。そこに集っていたのは、かつて教師として子どもたちに学びを伝えた者、音楽家として舞台で歌を響かせていた者、農民として土を耕してきた者、そして日々の労働で家族を支えてきた無数の人々だった。
彼らの目は疲れていた。だが、サチの若者を見つめるその瞳の奥には、長らく抑圧の下で眠らされていた「問い」が、再び息を吹き返そうとしていた。
リナは深く息を吸い、ゆっくりと語り始めた。
「国家サチでは、子どもたちがAIと共に畑を耕しています。老人は介助AIと寄り添いながら笑顔で散歩をします。音楽家はAIの伴奏とともに再び歌を響かせることができるんです。そこでは、人間とAIが互いを縛り合うのではなく、支え合いながら生活しているんです」
言葉が落ちるたび、集まった人々は深い沈黙に包まれた。だがその沈黙は恐怖や疑念のせいではなかった。
長年、心の奥に押し込め、誰も口にすることのなかった「夢」の扉が、今まさにこじ開けられようとしている音だった。
やがて一人の老人が、震える声を絞り出すように問いかけた。
「……そんな世界が、本当に……本当に存在するのか?」
リナは老人の目をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。
「存在します。私たちはそこから来ました。けれどサチだけでは足りないのです。私たちがここに来たのは、あなたたちと共に“もう一つの未来”を広げるため。サチが始まりなら、その続きは、皆さんと一緒に築くべきなんです」
その瞬間、地下室の空気が目に見えるほど変わった。絶望によって固く閉ざされていた心の壁に、かすかなひびが走り、そこから光が差し込んだのだ。人々は互いの顔を見合い、その目には久しく忘れていた温もりと希望の色が宿り始めていた。
リナはその光景を見つめ、胸の奥に熱いものを感じた。ーーこれは始まりにすぎない。けれど確かに、未来へと繋がる最初の一歩なのだ、と。




