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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シオン

僕が君を始めて見たのは、あの桜の木の下だった。卒業式の日、君はふたつ上の先輩に告白して、振られてしまっていた。


2年生になって君と同じクラスになった。

「ねえ、何の本読んでるの?」

君が初めて僕に話しかけてくれた時をずっと覚えてる。

その日から君はことあるごとに僕に話しかけてくれた。彼女は毎日ギリギリに走って学校に来る。そんな彼女に僕は「おはよう」とだけ声をかける。

おはようで始まり、バイバイで終わる。こんな毎日に僕は学校が終わる度、今か今かと明日を待ちわびた。

そんな毎日が当たり前だと思っていた。


彼女の誕生日は毎年卒業式の日らしい。

僕と彼女は毎日のように話して、少しずつ少しずつではあるが、徐々に距離を縮めれていたように感じる。

彼女の誕生日に、初めてデートに誘い、プレゼントに彼女の大好きなバラのお花をあげた時には、泣いて喜んでくれた。

花言葉には大好きって意味が込められてたけど、多分君は気づいてない。


結局告白する勇気も出ないまま、3年になってしまった。けど、僕たちは、また同じクラスになることが出来た。運命だと思った。今年こそ、君に好きと伝えるんだってそう思ってたけど、いつまでも勇気が出ないままの日々を過ごしていった。けど、ひとつ変化はあった。彼女の登校時間が明らかに早くなった。

「なんで最近早いの?」と問いかけても彼女からは「ひみつ!」とだけしかかえってこなかった。


卒業が近づいてきた2月に彼女は初めて学校を休んだ。風邪も流行っていたので、僕は心配になりながらも特に気にも留めることはなかった。次の日もその次の日も彼女は学校にこなかった。あの日を境に彼女は消えた。


彼女が学校に来なくなって1週間が経ち、流石に心配にもなってきたある日に僕は、知ってしまった。知りたくなかった。胸が張り裂けそうな痛みが僕を襲う。


彼女は自ら命を絶った。それはどれだけ恐ろしく苦しいのだろう。僕が君を失ってしまったことよりも何倍も辛いのだろう。君の事を毎日見ていたのになんで気づけなかったのか。

どうして君の苦しみをわかってあげられなかったのか。何度も自分を憎み恨んだ。その度に自分の情けなさが僕の心をぐちゃぐちゃにした。

明日なんて来なくてよかった。君と楽しく話すことのできたあの日が永遠に続けばよかった。もう君はこの世に居ない。明日が来る度、君のことを忘れる人が増えていく。でも、僕は決して忘れることはできない。それが僕がしてあげられる唯一の償いだと思うから。君が死んでも、たとえ誰かが死のうと今日が終わり明日が来る。


彼女の家に行き、お参りをさせてもらった。そこには、綺麗な彼女の写真と、僕があげたバラの花が花瓶にささっていた。僕が呆然として、その花を見ていたら、彼女のお母さんがこう言った。「ああ、これね去年の誕生日に好きな男の子に貰ったんだって、すごい嬉しそうに言ってきて、そこからずっと大切にしてたのよ、あの子このお花貰ってから毎日早起きして、お花の手入れしてたのよ。もしかして、君がその男の子?」

僕はそれを聞いて苦しいほどに泣いた。涙で息を吸うこともままならない程に。


「今日で、卒業だよ。」

あの日から毎日、朝君の机にある花の水をかえる。

もう教室でこうやって君と話すのは最後だね。

また、お参りに行くね、そこでまた話そう。

今までみたいに、毎日話すことは出来ないけど。


卒業式が終わり、もうみんなが帰り始めた頃に、風になびいて僕の顔に桜がとんでくる、大きな桜の木、僕が君を初めて知った場所。

君が、2年前の今日告白をしていた場所。

でも僕の声は届きそうにないな。君のために用意したプレゼントを桜の木の下に置く。綺麗な紫色のシオンの花。

「ずっと好きでした。」僕の声をかき消すように、桜が舞う。

決して僕は、後ろを振り返らずに、止まらない涙を押し殺しながら歩く。吹いた風が僕の背中を押してくれた気がした。この日僕は、ずっと片思いをしていた君に何も伝えることのできないまま卒業した。

僕の恋は、儚い桜の花びらのように、消えて散ってしまった。後悔と悲観をのせた声で僕は呟いた。



「ねえ、シオンの花言葉って知ってる?」


最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


実はこの作品、書きながら何度も涙が止まらなくなって、

特に終盤は自分で描いたはずの言葉に、何度も心を持っていかれました。

「もしもこうだったら」と思わずにいられない物語を書きながら、

僕自身も、過去の誰かや、言えなかった気持ちを思い出していたのかもしれません。


好きな人に“好き”を伝えること。

その勇気が、こんなにも難しくて、こんなにも大切だということを、

この物語を通して少しでも感じてもらえたなら、嬉しいです。


そして、次に書いている物語では、同じ出来事を彼女の目線から描いています。

あのとき、彼女は何を思っていたのか。

彼女にとって、彼の日々はどう見えていたのか。

今度は、彼女自身の声で、その想いを綴っていきます。


またそちらも読んでいただけたら、とても励みになります。

本当にありがとうございました。


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