09.あなたともう会えなくなっても、私の心の中にあなたはいつもいます。
そして、月日は流れ。
私は二度の妊娠と出産を経験した。
上から女の子、次に男の子と女の子の双子。
そして、下の子達が一歳になった頃、私の耳に信じられないニュースが飛び込んできた。
「妹が、死んだ?両親も!?」
そう、それは私の両親と妹の死。
なんでも、妹は病状が急変して亡くなり。
両親は病状急変の連絡を受けて病院に向かう途中、事故に遭って死んだのだ。
いきなりの出来事に魂の抜けた私を見て、夫が葬式の手配をしてくれた。
そして、葬儀後。
「で、今後の話だけど」
夫はそう切り出した。
「妹が亡くなった以上、この結婚生活も終わりだ。昨日離婚届も出してきた。子供の親権は、当初の契約通り俺が引き取らせてもらう。とっとと荷物をまとめて出て行ってくれ」
「ま、待ってください。私、ここを追い出されたらどこへ行けばいいか」
困惑する私に、彼は笑って言った。
「お前さ、顔で笑って良い奥さんやってたけどさ、内心がバレバレだよ。あー、こいつ俺の事内心で嫌ってるな、俺の事ゴミだと思ってるな、ってとっくにこっちは気づいてたんだよ」
「!!」
事実だった。
彼の言う通り、私は内心で彼の事をひどく言っていた。
「まぁ、心の中は自由だからな、俺も離婚しないでやった。実際、心の中以外は良き妻良き母だったからな。演技料として妹の金を払ってやったんだ。だけど、その妹は死んだ。もういいだろ、心の中で軽蔑して悪態をついているお前と暮らすのもいいかげんうんざりしていたんだ。とっとと出ていってくれ」
「で、でも……私今後どうしたら」
困る私に、彼はゴミを見るような目で言った。
「知るか。お前はいい妻を演じる事しかしなかった。自己暗示でもいいから俺の事を好きになるように努力すべきだった。だが、それをお前はしなかった。いくら素晴らしい女性だろうが、内心で悪態をついている女を誰が好きに……いや、大切に思うかよ。お前はいい妻を演じていれば俺に捨てられないと思っていたんだろうが、甘かったな。まぁ、恨むなら演じきれなかった自分と、とっととおっ死んだお前の妹とついでに両親を恨むんだな」
「……」
「まぁ、これもおまえの行動の結果だ。とっとと出ていけ」
そういうと、彼は私を無視して傍らに置いてあったスーツケースを渡してきた。
「お前の荷物だ。事前にまとめておいた。これを持ってとっとと出ていけ」
こうして、私は何もできずに夫婦生活を終える事になった。
去っていく私に、彼は最後こう言った。
「今までありがとう。君は、妻として、母親として、立派に演じてくれた。おかげで、家族というものがゴミみたいなものだと理解する事が出来た。正直、こんなゴミみたいなやつの為に結婚なんかするお前の気持ちがわからないが、まぁ正直どうでもいい。とにかく、これからはせいぜい君は君の幸せを考えるといい」
これが、私が彼の聞いた彼の最後の言葉だった。
今、私は実家にいる。
誰もいない実家。
結婚してから帰ってなかった実家。
もう、私以外誰もいない実家。
どうしてこうなったの?
誰が悪いの?
妹を救えるほどのお金を稼いでいなかったお父さん?
妹を健康的な体で埋めなかったお母さん?
病気になっても死なずに生きながらえた妹?
口先だけ心配して碌な金をくれなかった世間?
違う、私が悪いんだ。
私が夫に心から尽くせなかったから。
私がお父さんお母さんに妹が欲しいなんて言ったから。
私が目を離したから。
全部、ぜーんぶ私が悪いんだ。
「はは……はははは」
私には、ただ笑う事しかできなかった。
あれから数年。
私は、たまたまネットニュースで元夫の事を知った。
彼は私と離婚後、再婚していた。
なんでも、投資関連で知り合った人と結婚したのだそうだ。
金髪のすごい美人だった。
アメリカに大きな家を建てて、二人で前妻の子供三人(つまり私との子供)と住んでいると書いてあった。
そして、今の妻には、お腹に新しい命が宿っているとあった。
さらに、こんな事が書いてあった。
前妻の時には、事情があって契約結婚だったんです。
でも、こちらとしては仲良くしたかった。
でも、前妻は私の事が嫌いでね。
妻として、母としてはきちんとしていたのですが、
もう本心丸見えってくらい嫌悪感を出してましたよ。
だから、契約が終わった後すぐ離婚しました。
彼女は続けたかったみたいですが、私は断りました。
いつも私の事を嫌悪していたくせに、いざとなったら私を頼るなんてどうかしている、と思いましたからね。
だから離婚しました。
そうしたら、なんと色々幸運が続きまして。
こうして、新しい妻と新しい命に恵まれる事が出来ました
前妻の子達も、新しい母に懐いています。
私は今、とても幸せなんですよ。
「はは……ははは…………」
あの男、幸せなんだ。
私はこんなに苦しいのに。
私は数か月前まで、ある金持ちの愛人をしていた。
結婚していた時の伝手で、女好きの金持ちに会いに行って、愛人にしてもらったのだ。
そして、私は彼の子供を産み、今日子供と一緒に捨てられた。
子持ちのババアに用は無い、と言われて。
私は、お金を稼がないといけない。
幸い、家事スキルはあったから、今度は家事代行の仕事に就く事が出来た。
お金持ちの暮らしをしていたから、生活は苦しいけど、何とか一人でやっている。
子供は捨てた。
だって、一人で暮らすだけでも苦しいのに、子供を養うなんてできないから。
当たり前でしょ?
今でも思う事がある。
なんで私はこんなに苦しんで、元夫、狭間は幸せなんだろうって。
私は、大切な妹の命を守るために頑張った。
望まぬ結婚をして、愛してもいない男の子供を産んだ。
でも、私は不幸だ。
一方であいつはなんだ?
金を出しただけじゃないか。
投資なんてくだらない仕事しちゃって、たまたま運良く稼いだだけの成金男。
私みたいな専業主婦の方が、よほど素晴らしいわ。
だって、汗水たらして年収一千万の稼ぎと同等の仕事をしているのだもの。
なんで?なんで私だけこんな目に合うの?
いや、きっと私が幸せになる日が来る。
だってそうでしょ?
ろくでもない男に捨てられた後は、素晴らしい良物件の男が私の前に現れる。
そして屑の元夫にはザマァを。
よく読む話じゃない。
あー、楽しみ。
だけど、それからしばらくして。
信じられない事が起こった。
妹がかかっていた難病が治るようになったというニュース記事が私の目に入って来たのだ。
そして、その治療法を発見した医療機関を金銭的に援助していたのは、元夫の狭間優一だった。
さらに、彼はその難病治療に関して、様々な利権を得ており、今後難病患者を一人治療するだけで大金を合法的に得るという事も書いてあった。
そして……その記事では最後に【狭間優一は難病患者を利用して金を得る金の亡者である。このような病気に苦しむ人に心を寄せない人間が金の為に患者を利用する事はあってはならない】と記していた。
お楽しみいただけましたでしょうか?
男は心を求め
女は金を求め
この話、元々は短編の予定でした。
それが、スマホで最初作っていたので編集しやすいよう前後編になり、
書き終わった後にこんな話をいれたいなと思って長編に。
でも、完結出来てよかったです。
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