01.彼と初めていっぱい話した日。彼って本当に素敵なの。
この結婚は、私達家族が、優一さんのお金目当てでお願いしたものだ。
何故お金が欲しいのかと言うと、難病に侵されたまだ六歳の妹を救うため。
妹がかかった難病は、完治が不可能であり、さらに生きていくだけでも多額のお金がかかる。
その額は、共働きだが安月給のサラリーマンの両親では、とても賄えるものではなかった。
そこで、私達が最後の希望として頼み込んだのが、親戚の金持ちであるこの男性だった。
彼は株取引などで財を築き、年収は数千万。
しかし、楽して儲けてると思っている親戚全員(私達含む)からは嫌われていて、さらに彼の両親も金の亡者のクズと嫌われている。
実際、結婚式にも来ていないし。
私は、妹を何としても助けたかった。
小さいころ、私は弟か妹か欲しくて、両親にねだった。
両親はその願いを受け止めて、妹を授かってくれたのだ。
だけど、生まれた妹は体がとても弱かった。
……ある日の事だ。
ずっとベッドに横になっている妹を不憫に思った私は、こっそり妹を近所の川に連れて行った。
だけど、私が少し目を離した隙に妹は川で溺れてしまったのだ。
汚いドブ川に。
その日以降、妹の体調は急激に悪化。
ついには専門の治療をする病院から出られなくなってしまったのだ。
そう、妹の体が病魔に蝕まれるようになった原因は、私なのだ。
だから、私には妹を助ける義務がある。
そして、妹の病気がどんどん悪化し出して、数年。
ちょうど今から一年半前。
私達は大金持ちの彼に土下座して頼んだ。
お金を貸して欲しい、と。
そんな彼は、両親に話しかけた。
「なぁ、質問なんだけどさ、お前ら夫婦、今まで何回キスをした?」
「え?」
戸惑う私達。
彼は続ける。
「今まで何回手を繋いだ?今まで何回デートした?その中で海に何回行った?プールには?浴衣デートは?今まで何回一緒にお風呂に入った?で、何回セ○クスした?」
そう勢いよく質問した後、笑顔で聞いてきた。
「これ、正確に答えられる?」
「いや、おおよそなら答えられるかもしれないけれど、さすがに正確には……」
「私も……」
そんなこと、両親が覚えているわけがない。
それに、なぜそんな質問を?
両親は黙ってしまった。
「ちなみに、俺は正確に答えられる」
彼は笑ってそう言った。
「俺は零だ。全て零。異性に好かれた事なんて、一度もない。そんな俺がさ、何でお前らみたいなリア充……いや、今は言わないのかな?幸せ家族に大切な金くれてやらなきゃならね~の?」
「いや、貸して頂ければ……」
「こんな金額、お前ら普通のリーマンが無利子でも返せる訳ねーだろが。ってかさ、そもそも、俺お前らと話した事ないし。そもそもお前ら俺の事嫌ってただろ?よくそんな俺に金貸せなんて言えるよな。感心するよ。お前らの神経の図太さに」
そんな正論を言う彼に、今度は私が声を上げた。
「お願いです。あなたのお金で、妹は助かるんです。お金は、必ず返します。私も高校を卒業したら、いいえ、中退してでも稼ぎますから」
「お前、社会舐めてるだろ。今時、高卒や中退で、いや、仮に大卒でもこんだけの金稼げるわけないだろうが」
「だったら体を売ります。何でしたら、あなたが買ってください!」
そう言うと、私は上着を脱ごうと服に手を掛けた。
しかし、
「お前さ、何様なわけ?今時高級な所でもあんな大金払わねーよ。そりゃ、お前は美人でスタイルもいい。でもな、金で未成年買うと色々問題だってわからねーのかよ」
その言葉を聞いて、私は涙した。
「でも、私にはこれしか……お願いします。お金をください。大切な妹の……たった一つの命を救いたいんです」
私の言葉を聞いて、彼は笑った。
「なあ、知らないだろうけど教えてやる。俺はさ、こう見えて婚活してたんだよ。結婚して、子供が欲しくてな。十年くらいしたな~。その時、言われたよ。気持ち悪い、デート以前に外見が無理。臭くないけど、臭く感じるってな。酷いだろ。まあ、俺の年収知ったら、掌返したけどな」
「それが、何の関係が?」
「まあ、最後まで聞け。……こうして俺は結婚出来なかった。当然子供も零。つまり、女供は俺の子孫なんか残したくないわけ」
彼は笑いながら続ける。
「で、お前らは何?結婚して、幸せな家庭を作ったんだろ。子供も二人も出来て。姉の方は美人だし、どうやら家族思いで性格も良さそうだ。そんな幸せ家族が、俺のような見捨てられた、未来も無いブ男から金まで奪おうってわけだ」
「そんな……未来が無いなんて言い方」
「無いんだよ!俺には妻も子供もいないからな!将来孤独死する事決定!未来に俺の遺伝子残す事も出来ない!未来なんて無いんだよ!!」
「でも、あなたのお金で一人の人の未来が助かります!」
「はっ!」
彼は笑って、信じられないことを言いだした。
「お前らさ、妹を含めれば四人家族だろ。で、今回妹が死ぬから四引く一で三人家族になるわけだ。一方俺は一人家族。増える事もない。お前らの方が幸せだろうが!」
「命は数字じゃありません!」
「俺にとっちゃ数なんだよ!」
その言葉に、私は怒った。
いや、激怒した。
「家族を失う辛さ、わからないんですか!」
「あー、分からないね。ガキの頃から親に見捨てられて、妻も子供もいないんだから。例えばだけどさ、俺が生理の辛さや出産の苦しみを物知り顔で語り出したらどう思う?おまえ、何言ってるんだって思うだろ?だから、俺が家族を失う辛さなんて理解出来るわけね~だろが。文句があるなら分からせてみろよ!」
「あなたのような屑に、妻になってくれる人が来るわけありません!あなたのような人が結婚もせず、子供も出来ないのは自業自得です!」
「そーかそーか。じゃぁ、お前の妹が死ぬのはお前らの自業自得だな。なにせ、父親が大金を稼いでいれば、母親が健康に産んでれば、お前が妹から目を離さなければ長生き出来たんだから。さすが親戚、屑の家系は屑という事か」
それを聞いて、堪え切れなくなったのか今度は両親が激怒した。
「ふざけるな!金を稼ぐしか能のない糞野郎が!黙っていればいい気になりやがって!」
「そうよ!命の重さ、大切さを知らないあんたみたいな奴、最低よ!」
そういう両親に、こいつは笑って言った。
「あー、最低で結構だとも。で、お前らはなんだ?ただ親戚という関係だけの俺に、金をたかりに来た乞食だろうが!」
「誰が……誰が乞食だ!訂正しろ!!」
「あ~そうだな。お前らは乞食じゃないな、訂正するよ。乞食は貰えないのが当たり前って理解してるからな。お前らは子供の病気を理由に金をたかる屑だ」
「ふざけた事を言わないで!」
怒る母に対し、屑男があざ笑いながら言う。
「そこの女もうるせぇよ。さっきも言ったが、そもそもお前がきちんと元気な子供に産んでやらないのが悪い。恨むならお前の貧相な子宮を恨めよ。いや、それともそんな子宮を持って産ませたお前の両親かな?それに、何度も言うが俺に金せびらなくてもお前ら夫婦で稼いでいればよかったんだよ!自分達の無能っぷりを棚に上げて、人を責めるんじゃねぇよ。無能タカリ一家が」
あまりの言い草に、私たちはもう我慢が出来なかった。
「帰るぞ!」
「えぇ、帰りましょう!」
両親がそう言って、私たちは荷物を持って帰ろうとした。
背後から、彼の嘲笑が聞こえる。
「ってかさ、そんなに死なれるのが嫌なら端から産むな。人ってのは死ぬものだ」
「ふざけないで!お前なんか人間じゃない!死ね!!」
そう言う私に、ゴミ屑は笑って言った。
「ウケる。つい今さっきまで命の大事さを語っていた奴が、死ねとか言いやがった」
私のブーメラン発言を嘲笑う言葉に、私は痛いほど唇を噛んだ
「まぁ、俺のような人の心がわからない屑より、人の気持ちがわかる心優し~い人からお金をもらえばいい。きっと心良く只で金を恵んでくれるだろうよ」
そう言って笑う彼の声を聞きながら、私たちは家に帰った。
だけど、そこで、私達は冷静になった。
私にも、おそらく両親にも、彼以外にお金持ちはいない。
つまり、彼以外に大金を貸してくれる人はいない。
でも、彼にお金を借りるのは嫌だった。
「そうだ、クラウドファンディングしようよ。SNSにも上げて、寄付金を募るの」
「そう、だな。やってみてくれないか」
「任せて!」
こうして、私達のお金集めが始まった。
クラウドファンディング以外にも、SNSに詳細を上げて、資金を募った。
特に、あの金持ちとのやり取りをSNSに上げたら、当然あいつのSNSは大炎上。
一瞬、訴えられるかな?と思ったけど、あいつは何もしてこなかった。
私たちの事は世間に広まり、テレビにも取り上げられるようになった。
そして、結構なお金が集まった。
ザマァみろ!
クソ男!!