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予知夢だった……?

 ノクティスは、あの現実に思えそうな夢は予知夢だと思うことにした。予知夢なら避ければいい。

 ゆっくり起き出したところで気配を感じたのか、侍女と侍従が入って来た。


「おはようございます、ノクティス殿下」


 この二人は専属だが、ノクティスは知っている。侍女の方が国王の自分に対する失言を、自分に聞かせてきたことを。もう、自分は聞かされた後だろうか。それともその前か。予知夢がまだ生々しく、自分の記憶が混乱しているノクティス。


 そして、直ぐに父である国王の失言を聞かされた後だった、と思い出した。そのことで食欲不振になったノクティスを心配した侍従の方が、父上に進言し、父上と話し合い謝罪を受けるのは、予知夢によると数日後のこと。


 試しに同じ行動を取ると、果たして数日後に父である国王陛下から自分の失言について謝罪を受けた。

 ノクティスは噂で聞かされたのではなく、侍女から直接聞かされたのだが、あの予知夢が生々しいからなのか、侍女がなぜ国王の失言をわざわざノクティスに直接聞かせたのか、という疑問が今、生まれた。


「父上、私は父上の子ですよね」


 その疑問は取り敢えず置いておくとして、先ずは国王と話し合うことにする。


「もちろんだ。髪の色も目の色もノクティスは母である側妃に似たが、顔立ちは余にそっくりだ。髪と目の色だけで、我が子を我が子では無い、などと疑ったことを余は恥じている。どちらの色を受け継ぐのか、そんなことは誰も分からないのに。思い出してみれば、余の祖父上と父上も髪と目の色は違っていた。そのことを忘れていた余は自身を恥じているよ」


 父の真摯な言葉に、ノクティスは謝罪を今度は拒否した。


「父上。父上の言葉に嘘は無いのかもしれません。でも国王ではなく父としての謝りだと思うので、受け入れたくないのです。……今は」


 今はまだ、父の謝罪を受け入れられない、とノクティスが言えば、そうだろうな、と頷く。

 それならば、と国王ではなく父としての時間を取ることにして信用を得られるようにしよう、と父が言う。あの予知夢では無かったことだ。

 ノクティスが謝罪を受け入れなかったことで未来が一つ変わった、とノクティスは思いながらその提案は受け入れた。


 父として、時間を取ると言っても忙しいことに変わりない。それもノクティスは知っているが、あの予知夢では父の謝罪を受け入れたノクティスと国王の関係は表面上変わらず、それゆえに時間を取ってもらうことも無かったが、受け入れなかった現実では、朝食を共に摂ることにしよう、と具体的な提案を受けた。

 それに了承して、翌朝早速朝食を共にしたら、その場には王妃と異母兄と異母弟と母である側妃もいない、父と二人だけの朝食を迎えた。

 それまでは必ず家族揃って、だったけれど、予知夢でも今まででも無かった光景に一瞬気後れする。


「ノクティス、どうした」


「いえ。父上と二人で、というのは初めてのことでしたので」


「そうか。そういえばそうだったか。済まなかった。そんなことも無かったのだな」


 国王としてではなく、父親として言葉を発するその人に、予知夢の中の自分も、本当はこんな風に父に自分を見て貰いたかったのだろうな、となんとなく感じた。少しだけ未来が変わった気がする。

 そうして二人でぎこちないながらも会話を交わしながら朝食を摂っていて、ふと思った。


「父上」


「どうした?」


「私は、兄上や弟とこんな風に会話をしたことが無いことに気付きました。そのうち、話せるでしょうか」


「そうだな。少し、考えてみよう」


 予知夢の自分は、同い年の異母兄が父と同じ色であることに嫉妬して近づくことをしなかった。同じく王妃の息子として生まれた異母弟のことは気にしなかったのに。

 予知夢の自分は、王妃と同じ銀色の髪に父と同じ目の色をした異母弟のことは気にならなかったのだろう。積極的に関わろうとしなかったが、異母兄ほど疎ましく思ってなかった。

 だが、自分のやらかしを間近で見ていた異母弟から軽蔑の眼差しを向けられたことを思い出して。あんな目を向けられることを仕出かしたのは確かだけれど、それより前に関係性が良くなかったのも確かだから。


「悪くはなかったが良くも無かった、ではあの結末を迎える。それなら良い兄と見られなくても良い人間に見られるくらいには関係改善しても良い、はず」


 口の中で呟く。

 予知夢で、あのやらかしの時。異母兄は見向きもしなかった。異母弟だけが呆れただけ。

 そこでまた疑問が生まれた。

 卒業式で、あの婚約破棄を言い渡した時、異母弟は在校生としてあの場に居た。それは覚えている。

 父上と母上と王妃殿下には卒業式後、城に戻って来てから伝えた。それも覚えている。


 じゃあ、自分と一緒に卒業式に出席して卒業したはずの、異母兄はどこに居たのだろう、ということ。


 あの予知夢では自分と男爵令嬢・ジゼルと婚約者だった伯爵令嬢・ルナベルとその兄と妹の記憶はある。その周囲に予知夢の中で学んだ学友たちの顔も見た。だが異母兄の顔を見た記憶が無い。なぜなのか。

 併し、父である国王からルナベルの母親の本当の血筋を聞かされた場には、異母兄は居た。それは卒業式からかなり後、時間が過ぎてから。

 だから。あの卒業式に居なかったのが気にかかる。

 やはり、異母弟だけではなく異母兄とも交流を増やすのは必要だろう。

 自分の母は側妃だが、父の寵愛を受けて召し上げられたわけではなく、王妃殿下に中々子が授からなかったため、側妃として召し上げられるような令嬢を早急に、ということで決まった話だったから、王妃殿下からそこまで敵視されていることも無いはず。

 異母兄と異母弟と交流を持つことは然程難しくないだろう。そんなことを考えながら、父との食事をノクティスは楽しんだ。


 一つは予知夢の未来を変えた、とも思いながら。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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