芝居期間の婚約。その2
「取り敢えず具体的に言えば、この前の物凄く悪かった天気の日に開かれたお茶会があったでしょう」
記憶を思い出すように促され、ノクティスは頷く。
「ああ、前の時はあんな風にお茶会の日に荒天になったことが無かったはずなのに、随分と荒れましたね。あの日の茶会で見初めた、ということに?」
そういうことね、と側妃は頷く。
「あのお茶会は側近を探すことと婚約者候補を探すことだから、あなたが見初めたこともおかしくない。ちょっと時間が経っているけれど、陛下には伯爵家だと釣り合いが取れるか心配だったから、と誤魔化しておくわ。でもあなたが望んだから、とね」
お茶会の目的は当初からその予定だったので見初めた、と言ってもおかしくない。
「それで婚約を締結してもらい、直ぐに破棄は出来ないだすよね」
「そうね。バゼル伯爵夫人と話し合って、私が除籍される五年後を予定しているわ。前回より早いけれど、時間も場所も関係ないから大丈夫のはず、だとね。正妃殿下にそれとなく確認したけれど、ニルギス殿下もアイヴィス殿下もバゼル伯爵令嬢を見初めた様子では無さそうだし」
つまり、異母兄弟と争うことにはならない、ということだろう。
「前回異母兄は確か他国の王女と婚約していましたよね」
全てを覚えているわけじゃないノクティスは、うろ覚えの記憶をなんとか引っ張り出して確認する。
「ええそうよ。だからあなたが卒業式でやらかした婚約破棄宣言のとき、いらっしゃらなかったでしょう」
側妃の肯定に、ノクティスは抱えていた疑問が解けるような雰囲気に首を傾げる。
「どういうことですか。確かに私がルナベル、じゃなかったバゼル伯爵令嬢に婚約破棄を突き付けた卒業式のときに、異母兄は居なかったと記憶しています。後に国外追放処分の件で、父上がバゼル伯爵一家がレシー国へ向かっている、と私たちに話した時には異母兄は居ましたが」
側妃は覚えてないの、と呆れたような顔をしてみせたが、断片的にしか覚えてない、と言えば、そういうものかもしれないわね、と話をする。
「あなたがやらかした卒業式、というよりその前から一年ほどニルギス殿下は婚約者であられる王女殿下の国へ留学していたのよ。だから居なかったの。その直後に帰国されたから国外追放処分を言い渡してバゼル伯爵一家がレシー国へ向かい、それでレシー国との関係を陛下が教えてくださったあの場には居たのよ」
ノクティスが巻き戻ったことに気づいて、それから巻き戻った記憶をなるべく思い出せるように、と思い返していたときに疑問に思った異母兄不在の卒業式の件の真相は、それだったらしい。
どうやら母の方が自分よりも覚えていることが多いことにノクティスは気づいた。なので、何か前回のことで気にかかることがあったら母に尋ねよう、と頭の片隅に置いて、先ずは陛下に、バゼル伯爵令嬢を見初めたと婚約願いを母と共に申し出ることにした。
側妃が控えている使用人に命じて陛下に先触れを頼み、時間を取ってもらえるようにする。先触れ内容として、ノクティスがバゼル伯爵令嬢を見初めたので、婚約願いを申し出たい、ということまで口添えして。その先触れ内容で時間を取ってもらい、陛下にいくつか確認された後で、バゼル伯爵が登城しているから打診してみる、ということで。
数時間後には、バゼル伯爵と陛下の間で婚約誓約書を作成し、それぞれがサインを交わして、ノクティスとルナベルの婚約が締結された。
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