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大国・レシー国へ。その2

 一方で、イオノとアイノの伯爵夫妻は、子どもたちとは正反対に深刻そうな顔で話し合っていた。

 いや、深刻そうな顔はイオノだけで、妻のアイノは朗らかな笑顔を浮かべているが、話の内容は、当然ながらロミエルの夢の話であった。


「アイノはどう思う」


「具体的な内容だから実際にあったことだと思っているわ」


「だが、それだとロミエルは未来を見てきたことになる」


 イオノはロミエルにそんな不可思議な能力があるということに疑念を抱いていた。


「ううん……。未来を見てきたのではなくて、実際に経験した過去なのよ。時間が巻き戻ったのね」


 イオノの疑念にアイノがあっさりと答えを出す。


「時間が巻き戻る? そんな常識外のことが起こり得るのか? いや、時間が巻き戻るなんて、人が死んでも蘇るような、そんな神の領域にあたるようなことが起こり得るのか?」


 愛する妻の言葉とはいえ、常識人であるイオノとしては疑ってしまうのも無理は無い。


「レシー国が元々、いくつもの小国が一国としてまとまったことは知っているでしょう」


「それはもちろん」


「あなたには話したことが無かったわね。国の成り立ちについて。小国をまとめた。言い換えると、戦って小国を呑み込んで、レシー国という大国が出来上がった。戦って勝ったことで出来たのがレシー国。じゃあ負けてきた国は、どうなったのか分かる?」


「敗戦した国は……国民になるしかない」


 妻の意図する話が分からないまま、イオノは答えていく。


「そう。具体的には、王妃・王女或いはその血を汲む令嬢の一人か複数を娶って、その他の王族は悉く滅ぼされる。反乱を起こされないように。

そうして娶った女の牙をもぐことも忘れない。女たちが抵抗しないために、ね。つまり娶られた女たちは愛する家族を目の前で殺される。そうして従順になるしか道はない。でもね。本当にそうかしら」


 アイノが話す内容は、争いがあったなら当然のような末路だろう。イオノはそう思いながら話を聞いていたが、不意に妻が疑問を呈した。


「本当にそうかしら、とは、従順以外の道があった、ということか」


「半分正解で半分は間違い、かしら。娶られた女たちは従順になるしか道はないのだけれど、娶るとは結婚するということ。有体に言えば子を生すこと。

負けてきた国の女たちは初代レシー国王の子を生すという道を与えられた。

そして、その子たちは母親の手によって育てられることがほとんど。例えば、その負けた国の女たちが互いに手を取り合ったとしたら、あなたならどんな想像をする?」


 イオノはアイノの問いに、まさか、と喉を鳴らす。


「女たちが手を取り合って、初代レシー国王を打倒する?」


「ちょっと違うわ。いくら人数がいても戦いを知らない女たちがレシー国王に挑んでも負けてしまう。負けるだけじゃない。自分どころか子の命まで奪われてしまう。

だから。女たちは自分たちの国に伝わってきたものを子たちに伝えた。なんで言えばいいのかしら。近いのは呪術ね」


「呪術?」


「のろいではなく、まじないよ。呪いだと禍々しく思えるのに、まじないだと良いことを呼び寄せるように思えてしまうのが不思議だけど、どちらも根本的なものは同じ。

人智を超えた力に頼る、ということ。それを分かり易く言うのなら、呪術。女たちが手を取り合って子に伝えたものは、一国だけじゃなく複数の国で昔から続く呪術。

女たちは、その複数の国で使われていた呪術、それを扱える子を作り上げたと言われているわ。その子の血は脈々と繋がれてきて、今のレシー国王の一族は、その末裔と言われているの」


 なんだかレシー国の闇を見てしまったイオノ。そこまで言われてハッとした。


「つまり、もしかして時間が巻き戻ったのも呪術とやら、か?」


「可能性はあるわ。ロミエルは私の子。つまりレシー国の王族の血を引いている。何らかの代償と引き換えに、時間が巻き戻った可能性もある。

呪術を扱える子が、一体どんな呪術を託されたのか、それは知らないけれど。複数の国で伝わってきたものというのは、それこそ遥か昔から伝わってきたものだろうから、神の領域に接触しそうなものだってあったかもしれないわ。

もちろんあくまでも私の想像。ただ、可能性として時間が巻き戻った、ということは有り得ないわけじゃないことをあなたに伝えておきたかった。

本当に巻き戻ったとして、ロミエルが呪術を使ったとは言えないし、そういうものは得てして代償を支払うことになる。扱ったものが大きければ大きいほど、代償も大きくなるわ。そう考えると、ロミエルが本当に使用したのか分からないし。

でも巻き戻った可能性はある。それが出来たのはレシー国の王族の血を引いた者の可能性。まぁ予測よ」


 アイノは、これでおしまい、と最後は軽く笑ってみせたが、イオノは話の異様さに、言いようのない怖さを少し垣間見て。身震いしながら、可能性の一つとして頭の片隅に話を置いておくことにした。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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