大国・レシー国へ。その1
そういったわけで一度レシー国へ向かうことになった。どうせなら、家族全員で、と旅行気分でもある。
家の守りを執事を筆頭に使用人たちと、イオノの両親である前伯爵夫妻に任せて。当然、イオノの両親はアイノの出生の秘密を知っている。だから、レシー国に行く、と言われて一回は反対した。
ルナベルでもロミエルでも、どちらが公爵家の養女になっても寂しくて、だ。もう気軽に会えなくなってしまう、と。
イオノは、両親にこれから話すことは他言無用に、と告げ両親にそれを誓わせた上で、ロミエルの夢の話を語った。ただの夢ではない証拠として、アイノがレシー国の出身で王女だとその夢の中で、ロミエルは知ったということも話して。
前伯爵夫妻は、まさか、と笑っていたものの、ロミエルの夢が具体的なものであるのと同時に、確かに我が国の陛下ならばレシー国との繋がりを断つことはしたくない、とばかりに、どこぞの男爵令嬢をミゼット家の養女にしろ、と言いそうだと思ってしまう。
というのも、レシー国は大国。
対して我が国は弱小とは言わずとも、睨まれたら滅亡の危機に陥るだろうくらいには、レシー国より弱い。
アイノの出生の秘密を知っていたのなら、王命を使ってでもルナベルを第二王子の婚約者に据えることはするだろう。
それに、第二王子・ノクティス殿下とその母である側妃に負い目を感じているのなら、余計に。
前伯爵夫妻は渋々だがレシー国行きを認め、帰って来るまで領地と領民を守ることを了承した。
「お祖父様、お祖母様。ずっと向こうに行くわけでもないですし、それに私たちもお母様の方のお祖父様とお祖母様にお会いしたいですわ。
もちろん、この国の侯爵家のお祖父様とお祖母様にはお会いしています。お母様を養女としてお迎えしてくださって、私たちのことを孫として大切にしてくれますけれど、レシー国のお祖父様とお祖母様にもお会いしたいのです。お祖父様とお祖母様ならその気持ちを分かってくださいますよね」
さぁ、馬車に乗って、というところで、了承したもののまだ気持ちが切り替わらない前伯爵夫妻。孫たちに暫く会えなくなるから、と出かける日を三日遅らせているというのに。
そんな二人の気持ちを理解しつつ、母方の祖父母に会いたい、とルナベルがニコニコと頼む。これには前伯爵夫妻も参った、とばかりに頷いた。
別れを惜しみつつ、何台もの馬車と共に、イオノたちはようやく出立した。ちなみに、両親と子どもたちは別の馬車で、子どもたち三人とルナベルとロミエルの専属侍女とリオルノの専属侍従が、代わる代わる乗り合うことになっている。
その他の馬車にはもちろん他についていく使用人たちや、家族の持ち物などが積まれている。何しろレシー国へ行くのは、日帰りというわけにいかない。馬車だと二週間以上は掛かる距離だ。荷物だけで馬車は何台にも及ぶ。
貴族の旅行とは得てして馬車行列でもあった。
もちろん、野宿などもっての外で宿は手配済み。
後は天候の問題と体調不良にさえならなければ、それなりに良い馬車旅になると思われた。
「考えてみましたら、ロミエルのおかげで私たちは四人のお祖父様とお祖母様が居ることを知ることが出来ましたのね。ロミエル、ありがとうぞんじます」
伯爵家が遠去かるのを馬車の窓から見ていた子どもたち三人。ふと、ルナベルがそんなことを口にした。
「四人?」
ロミエルは首を傾げる。いまいち分かっていない。
「そうか、そういうことになるね」
リオルノが直ぐに頷く。
「先ずは父上の父上と母上。先程お別れしたお祖父様とお祖母様。それから母上がこの国に来て養女に迎えてくださった侯爵家のお祖父様とお祖母様。私たちが母上の両親だと思っていたお二人。
だけど、ロミの夢の話から、実は母上の本当の両親がレシー国に居ることが分かった。レシー国王陛下と側妃殿下だね。このお二方もお祖父様とお祖母様だ。
そして、これから向かう、レシー国の公爵家も母上を養女として迎えてくださった家。公爵夫妻もお祖父様とお祖母様。つまり私たちには四人ずつお祖父様とお祖母様がいらっしゃる。たくさんのお祖父様とお祖母様が居るなんて、とても素敵なことだね」
リオルノが分かりやすく数えながら話せば、ロミエルは目をパチパチさせてからニコリと笑って、本当だわ、と喜んだ。
ロミエルは夢の記憶のおかげで、急に大人びたように淑やかな振る舞いをするように感じてしまったが、こういうときはまだまだ子どものように振る舞って、兄と姉を密かに安堵させていることまでは気づいていなかった。
こんな形で旅路が始まったのだが、夢の話は執事のダスティン以外は家族だけの話、ということで、馬車内ですることは出来ない。
なので、馬車の窓から見える景色が話題になったり見えたお店がどのようなお店なのか、勝手に想像してみたり。
馬車旅は順調にスタートしていた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




