明かした望みの裏で。その2
「そう」
側妃は少し素っ気ない返事をしたが、それは断られたことに対して思い悩んでいたからであり、決してゲルデ子爵夫人に対して怒りの感情を抱いていたからではない。
「も、申し訳ないことでございます」
併しゲルデ子爵夫人は、そうとは分からず自身の失態の叱責のように感じ、身を縮こまらせた。そのゲルデ子爵夫人の声を聞いてハッとした側妃。
「あなたを責めているわけではないわ、大丈夫。気にしてないから。私の望みを叶えようと努力したことは分かっています。気落ちしないように。今日はこの件を終わらせて、近況報告をしましょう」
これで下がっていい、などと言えばゲルデ子爵夫人は益々勘違いをするだろう、と切り替えた。
実際、別に側妃はゲルデ子爵夫人に対しては、自分の望みのために無理を言ったことを聞いてもらった、と思うし、それを労う気持ちがあるだけ。
それからは側妃として陛下の側に上がる前、交流していた時のように二人は会話を交わし、お茶をゆっくりと味わった。
そうして適度な時間を過ごした後、ゲルデ子爵夫人が下城してから側妃は部屋で考えていた。
「やはりレシー国を後ろ盾にして欲しいなどとは、失礼だったかしらね」
言葉を溢す。
前の記憶があり、陛下がレシー国との繋がりを欲していたことは知っている。そのためにバゼル伯爵令嬢のルナベルと婚約させていた。
それは同時に陛下なりのノクティスへの謝罪の印だと聞いている。自分がノクティスの出自を疑ってしまったから、という負い目から。
けれど、側妃自身はノクティスのためにレシー国と繋がることは考えていない。
その一方で、何の瑕疵もない側妃とノクティスが急に王籍の除籍を願い出ることは難しい。
そのためにはレシー国の後ろ盾があれば、事はスムーズに運ばれると思ってのこと。
けれど冷静な視点で見れば大きな矛盾であり、失礼極まりない願いだったと思う。
除籍されたいからレシー国に後ろ盾になって欲しいなど、あまりにも自分本位な望みだ。
ジェミニ前侯爵夫人がバゼル伯爵夫人に、力になって欲しいと頼んだことを知らせてもらった。それもあって、側妃は何となく自分の望みが上手く通るような気がしたけれど。
よくよく考えてみれば、除籍願いにレシー国の後ろ盾を必要とすることなんて有り得ない。
バゼル伯爵夫人に対しても失礼なことだし、仮にバゼル伯爵夫人が側妃の願いを受け入れてレシー国を頼ってしまっていたとしたら。
それを聞いたレシー国がコレ幸いとばかりに、この国に介入してくるということで、それは他国による内政干渉であり、付け入る隙を与えたということであり、勘繰られれば、側妃とノクティスが国を売ったことにもなりかねない。
除籍どころか死罪にされる案件だ。
「そんなことにも気づかないなんて、私は国母では無いけれど、それでも側妃失格ね」
考えれば考えるほど自分を嘲笑してしまう。
除籍をされたいのなら他国に干渉してもらう方法ではなく、自ら陛下と話し合うべきだった。愚かにも程がある。
側妃は王家と国のために自分の人生を変えられてしまった、という気持ちが根底にあるため、前の時も今も陛下や王妃とは距離を置いていた。
そのせいで、自分の望みを陛下に打ち明けることを躊躇ってしまうような現状を招いていたのだから、先程から自嘲ばかりだった。
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