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明かした望みの裏で。その1

「お断りします、と」


 震える声で託されたくなかった言伝を託されてしまったゲルデ子爵夫人は、尊敬する側妃殿下に伝える。


 元々側妃殿下とゲルデ子爵が幼馴染で、結婚してからは夫人も親しくさせてもらっていた。抑々夫人は平民とほとんど変わりない準男爵家と男爵家の間のような位置の家に生まれた。


 爵位こそ代々続く男爵家だったが、一代限りの準男爵家のような平民とあまり変わらない生活をしていた令嬢だった。辛うじて母に下位貴族の令嬢として恥ずかしくないだけの教育を受けたが。

 夫と出会ったのは下位貴族の子息子女が集まる茶会にて。夫人は誰かと良い縁談が調えばいい、というつもりで。夫も爵位を継ぐためにも結婚は不可欠だったため。のんびりした二人は気が合ったので、トントン拍子に婚約し結婚した。


 それから側妃殿下……その頃はもちろん違ったが、夫と共に側妃殿下と時折交流していた。半年に一度か年に一度くらい顔を合わせるようなものだが、側妃殿下はゲルデ子爵夫人を気に入ってくれたのか、手紙のやりとりは交わしていた。

 その頃の側妃殿下は、婚約者との結婚に向けて具体的な話になろうか……という頃合い。それなのに王命によって子を産むためだけに召し上げられてしまった。その時のことはゲルデ子爵夫人はあまりよく知らない。その辺りはやはり高位貴族との差があり、あまり立ち入ったことは聞けないし、知る立場でもなかったからだ。


 それから少しして、側妃殿下が王子殿下をお生みになられて暫くのち、側妃殿下から手紙がきて。交流が復活した。


 もう側妃殿下との身分差でいけば雲泥の差のようなものなのに、自分を忘れていなかった、と知ったゲルデ子爵夫人は天にも昇る心地になってしまった。

 夫が苦笑して私や子どもたちと居るよりも側妃殿下からの手紙の方が幸せそうだね、なんて言うほどに。


 だが、夫も夫人の気持ちは分かるのだろう。

 もう遥か上の身分になってしまった幼馴染が、自分の妻を気にかけてくれている。その優しさと懐の深さは子爵自身、感謝の念が絶えなかった。


 だからこそ、側妃殿下に頼まれて我が家で茶会を開きたい、と言った妻に頷いたし、詳細は聞かないで欲しいと妻から言われたので詳細は尋ねなかった。

 ただ、茶会が終わった頃、妻は気落ちしていて側妃殿下に頼まれたことは上手くいかなかった、と言ったのでどう慰めようか、と困惑したが。


 妻が側妃殿下に手紙を書いて謝る、と言い、この件は自分に任せて欲しい、と妻が言うので子爵は任せるしかなかった。側妃殿下が話してよい、と仰ったら話す、とまで言われてしまえば尚更。

 手紙を書いて謝罪の意を表したゲルデ子爵夫人は、側妃殿下から指定された日に王城へ来るように、と返事をもらい、心配そうな顔の夫に見送られて、登城した。


 指定されたのは下位貴族の夫人でも入れる王城の庭園のガゼボ。登城するからには、夫人が持つドレスの中で最も高価な品を着て。

 それでも浮かない顔のゲルデ子爵夫人は、案内されたガゼボにて待つこと暫し。

 側妃殿下が視界に入った瞬間に頭を下げて、謝罪をしつつ、バゼル伯爵夫人の返事を、と催促されて口籠もりながら冒頭の言葉を伝えた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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