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母の過去と提案。その1

「イオノ。ロミエルがわたくしの出生のことを知っている以上、ただの夢物語では無いことがわかりましたわね。どうなさいます?」


 ロミエルの話が夢物語ではないことが分かった以上、イオノはこれからどうするべきか思案していた。

 不幸になると分かっていて第二王子と婚約などさせたくは無い。

 そんな風に悩んでいるところへ、アイノの穏やかで静かな声がイオノの、そして家族の耳に届いた。


「それを今、考えていた。ロミエルの話を聞くに、今度招待されるだろう茶会を休むことは出来ても、その後は欠席続きは難しそうだ。ルナベルが病弱だと噂になると嫁ぎ先が無くなってしまう可能性もある」


 苦渋の表情で頭を悩ませるイオノ。


「あの、お父様、お茶会に招待される可能性はありますの? 王家主催のものは高位貴族のみが招かれるものではないのですの? それに、ロミエルの話では十歳のお茶会にて、ですわよね? あと二年は先のことではありませんの?」


 性格は母譲りのように、のんびりとしているルナベルが確認する。


「確かに我が家は、爵位が伯爵で高位貴族とは言い切れないが、アイノの実家が侯爵家であるが故に招待される。王家主催のお茶会というのは、王子や王女の側近や友人や婚約者選びだからな。

陛下に王女殿下はいらっしゃらないが、第一王子殿下と第二王子殿下が六歳となられた二年前から、定期的にお茶会は開かれている。

二年前も去年も招待状はもらっていたが、お祖父様の容態が悪かったことと、亡くなったことで不参加にしてもらっていた。

今年は不参加にする理由が無いが、ルナベルを病とすることは出来る。お茶会の招待状はそろそろ届くはずだ。開催する日程は、警備上の問題や国王陛下夫妻の公務等の関係から既に決まっているからな。

また、十歳のお茶会というのは、婚約が決まった時期であってお茶会そのものは、それまでにも行っていたはずだ」


 招待状を出す時期というのも決まっている。

 大体が二ヶ月から三ヶ月前。

 つまりそろそろ届くのなら、二ヶ月か三ヶ月後に開催ということで、大人の社交シーズンと同じ頃合いということ。

 また、去年も二年前も同じ時期に開催されていて、この頃に招待状が届いていたのだからそろそろ来るのは間違いない。


 ルナベルが病だということにするのなら、参加の返事を出してから、前日かその前辺りから体調不良ということにするしかない。

 そんな風に悩んでいたイオノに、再び凪いだ風のようなおっとりした声で、アイノが告げた。


 ふと、ルナベルは昔から母は声が大きなわけではないのに、耳をそちらに傾けてしまうような、そんな声をしていることを思い出した。


 常に穏やかでおっとりとしているアイノの外見は、その性格を表すように、垂れ目で鼻は少し低くて唇もぽってりとしている。

 ローズピンクの髪と髪より薄いピンク色の目をしていて、体型もふくよかなので余計に性格が穏やかに見えるのかもしれない。


 そんな母だが、声音はいつも耳を傾けてしまう、とルナベルは思う。今も、イオノに呼びかけているのに、家族みんなが耳を傾けている。


「あら、イオノ。悩むことは無くてよ? ルナベルが十歳で第二王子殿下との婚約が決まったというのでしたら、あの話をその前に進めてしまえば宜しいのよ」


 イオノは目を瞬かせて、アイノの言葉を吟味し。


「では、ルナベルを?」


「いいえ。当初の予定通り、ルナベルかロミエルかどちらかで。但し、私たちが決めるのではなく、あちらで決めてもらえるように、二人をあちらに連れて行けば宜しいのですわ」


 イオノは、そのような……と、考えもしなかったことを言われたように驚く。


「それも、今年からあちらに連れて行けば宜しいの。ずっとあちらに、ということは難しいかもしれないけれど、その可能性があるから、と婚約の打診が来たらお断り出来るように実績を作っておけば宜しいの」


 穏やかな妻の、けれど大胆な提案にイオノは、少し考える。妻が実は思い切りの良い性格なのは、結婚前から分かっていたものの、それにしても大胆な提案ではあった。


「王命が出てしまえば……」


「あら。イオノにしては珍しく弱気ね? でも大丈夫だと思うわ。だって国王陛下は私の出生の秘密をご存知なのでしょう? でしたらそれを逆手に取れば宜しいのよ。私の祖父の代のことを口にすれば、安易に王命は出さないのでは無くて?」


「ああ、あの頃のことか。確かに、王命で無理強いをして、その可能性が再浮上することになったら、と考えれば王命を出すことは躊躇するな」


 アイノの話にイオノは、そのことがあったか、と唸りながら納得した。

 夫妻で納得したところで、三人の子たちと、自分を支え続けてくれる忠実な執事を見遣る。

 ダスティンは心得たように一礼し、夫妻が何を決めたのか分かったことを無言のうちに示した。

 イオノは忠実な執事に、さすがだな、と思いながら話がまるで分かっていない三人の子たちを真剣な眼差しで見る。


 ロミエルも分からないのであれば、ロミエルの知る未来では、この話は無かったことにしていたのか、簡単に話せる問題では無かったのだろう。

 おそらく簡単には話せなかったのだろうな、とイオノは内心で思う。

 だが、望まぬ婚約で娘が傷つくくらいなら、とイオノは話すことにした。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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