明かされる望み。その2
「改めまして、バゼル伯爵夫人、アイノ・ミゼット様。この度は茶会に出席していただきまして、ありがとう存じます」
アイノが案内された応接室に入室するのと同時、ゲルデ子爵夫人が頭を下げた。通常ならばアイノの方が招かれた礼を述べる場面。
「こちらこそお招きいただきまして、ありがとう存じます、ゲルデ子爵夫人」
アイノが招待の礼を述べると、もどかしいとばかりにソファーを勧めたゲルデ子爵夫人は、既に準備された茶器に自ら茶葉を落とし込んで湯を差す。ティーポットの中で茶葉がジャンピングしているだろう勢いで、アイノはこの夫人、茶を淹れるのが上手なのかもしれない。と密かに楽しみを見出した。
ほとんど話したことのない相手から茶会を招かれ、警戒しつつやってきたのだ。これくらいの楽しみはあっても良いだろう。
無言のまま一連の動作が終わるまで待つ。こちらから切り出すことは何もないし、使用人がお茶を淹れる間、待つのもまた礼儀。使用人ではなく主催者が直接淹れているが。
「どうぞ」
香りといい、色といい、計算し尽くされたような品の良い紅茶が目の前に差し出された。濃すぎない色合いから察するに渋みも無いのだろう。カップを持ち上げ一口喫する。香り立つとはよく言ったもので、本当に良い香りが口いっぱいに広がった。
「美味しいですわ」
あれこれ味について品評せずに一言だけ告げたアイノは、ありがとう存じます、と微笑んだゲルデ子爵夫人を見つめた。
これから彼女が何を話し出すのか、このお茶に免じてゆっくり聞こうと思って。
「バゼル伯爵夫人は、元はレシー国のご出身だと伺っております」
アイノの反応を探るように切り出したゲルデ子爵夫人。当然アイノは髪の一筋すら動揺の欠片を見せない。続けて言葉を繋ぐ。
「バゼル伯爵夫人は貴族の中でも最高位の公爵家のご令嬢でしたか」
その一言にも動揺を見せずただ微笑みを浮かべるだけ。それこそが、その話が真実だと言わしめる。
「側妃殿下からバゼル伯爵夫人のことを伺いまして、失礼を承知で疑っておりました。ですが、何も反応なさらないからこそ、真実だと理解いたしました。どうぞバゼル伯爵夫人には、ご不快な思いをさせたことをお許し願えましたら、と」
「良くてよ」
側妃の言葉とはいえ疑っていたことを率直に謝ったゲルデ子爵夫人に、アイノは鷹揚に頷く。
「側妃殿下のお言葉が真実であることを確認いたしました。バゼル伯爵夫人は既にご存知のことかもしれませんが、ゲルデ子爵領は側妃殿下のご実家の領地の隣に位置します。そのおかげか夫であるゲルデ子爵は側妃殿下と幼馴染という関係性。ある程度の年齢までは交流があったと聞き及んでおります。そして、私と夫が結婚してからは側妃殿下との交流を私が担っておりました。そのためでしょう。この茶会を開くように側妃殿下から懇願されました」
本題にサッと入ったゲルデ子爵夫人は、この茶会そのものが側妃の意向によって開かれたものだ、と打ち明け。
同時に「こちらを」と口にして手紙をアイノに差し出した。その封蝋には王家の印。そして封筒には側妃の名がサインされていた。
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