明かされる望み。その1
スカー子爵家のお茶会を終え、翌日のジェミニ前侯爵夫人の詩を読む会を欠席したアイノは、イオノと情報を共有しておく。
「ああ、そういえば側妃殿下はジェミニ侯爵閣下の元婚約者だったな」
思い出した、とイオノが呟くが、その辺りは覚えていてほしかったことだわ……とアイノは内心でため息を吐いた。
ただイオノの弁明によれば、側妃として王家に嫁入りした時点で、ジェミニ侯爵閣下……当時の侯爵子息は弁えて一線を引いた態度を貫いていたので、一時期社交場で噂されていたものの、飽きられたように他の噂に取って代わったから、というのがイオノの主張だが。とはいえ、イオノの一歳か二歳年上の側妃殿下の話である。
その上、その息子が自分の娘と婚約していた、という事実があったらしいのだから、もう少しその辺りのことにも頓着してもらいたい、とアイノはもう一度内心でため息を吐いた。
「兎に角、側妃殿下の意向を聞いてみないことには何とも言えませんが、養母様にはバゼル伯爵家で対応させてもらうことは伝えて参りましたから」
気持ちを切り替え、スカー子爵家でのお茶会での顛末を聞かせ、最後にそう締め括った。イオノも分かったと頷く。アイノ自身もレシー国へ向かう準備をしておくことにし、ゲルデ子爵家のお茶会当日を迎えた。
「さて。これから行く先は敵地になるのかしら。それとも手を取りあう関係かしら。まぁ手を取り合うことは出来なくても後ろから刺されない関係であればいいわね」
馬車で子爵家へ到着し、馬車停めから下りたアイノは、何度か挨拶を交わしていたゲルデ子爵夫人自らが出迎えに来ていたことに警戒した。
わざわざ出迎えてもらうほどの仲ではないし、爵位は伯爵夫人であるアイノの方が上とはいえ、アイノはその身分差を嵩にきてゲルデ子爵夫人を貶めるようなことをしてきたことはない。
つまり怯えられたりご機嫌取りをされるような関係ではないから、別にわざわざ出迎えなくてもお茶会の場で待っていればよい。
わざわざ出迎えるなど、怒らせてはならない、のようなご機嫌取りの意味合いか、相当仲の良い相手という意味合いになってしまう。そのどちらでもない関係性なのだからアイノが警戒してもおかしくない。
一体何を企んでいるのだろう、と。
「ようこそいらっしゃいました。先にお伝えさせていただきます。本日の茶会は、バゼル伯爵夫人と私の二人だけのものでございます」
アイノは、そうきたか、と口に出しそうになってなんとか堪えた。
「了承しました。どのような茶会になるのか楽しみにしておりますわ」
正式な招待状を出しておいて二人だけの茶会など、完全にアイノとの茶会を望んでいたとしか思えない。建前すらないのか、と少々呆れる思いもあるが、それだけ重要な話があるということか、とアイノは思い直した。
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