手紙による波紋。その2
アイノは子どもたちに準備が出来次第、レシー国へ向かうのでダスティン含め、出立の準備をするように話をする。それとは別にアイノはロミエルに尋ねることがあった。
「ねぇ、ロミエル。前のときは、ルナベルと側妃殿下の仲は良かったのかしら」
このタイミングで尋ねる母の考えは分からないが、ロミエルは前の記憶を思い出そうと天井を見上げた。
「お姉様と側妃殿下は仲が良い、というか。お姉様も王子妃として教育されるためにお城へ行ってました。あの男爵令嬢と出会うまでのノクティス殿下との仲は悪くなかったので、ノクティス殿下とお茶をして流行りのものの話や王子妃教育についての話などをされていた、とお姉様から聞いておりました。
その際に、お城へ行くたびに側妃殿下にご挨拶をしていたとも聞いてます。側妃殿下に、あまり気を遣わなくても良いと言われたけれど、やはり挨拶はしたいから、とお姉様が仰っていて。王子妃教育は辛くないか尋ねられたから、なんとか頑張っています。と答えたわ、なんてお姉様が仰っていたことがありました。
ですから仲良しというわけではないですけれど、お姉様は側妃殿下に敬意を払っていたと思います」
ロミエルの覚えている範囲での前の記憶。
併しそれを聞いて益々アイノは、今回のゲルデ子爵家で行われる茶会が自分を招くためのものだ、と確信した。
さすがに側妃殿下がやって来ることはないだろうけれど、ゲルデ子爵夫人が側妃殿下の意向によって何を言い出すのか。その辺りをアイノは知る必要がある。後回しにしたら嫌な予感がする、と考えてもいた。
「そうなの。分かりました。ありがとう」
側妃殿下はルナベルのことを少しは気にかけてくれていた、と見るのが正しいのか。その辺りのことは前のことである以上、想像でしかない、と割り切る。子どもたちとの話は終わり、イオノにも準備を進めてもらうとして。
先ずはジェミニ侯爵家を通じて知り合ったバゼル伯爵家の領地で作られている特産品を取り扱ってくれている商会夫人の茶会へ。
スカー子爵家は代々商会を経営している。八代だか九代前のジェミニ侯爵家の当主の弟が婿入りした商家で元は一代限りの準男爵家だったと聞いている。ジェミニ侯爵当主の弟が婿入りすることで王家が動いて、男爵家に陞爵したとか言われているが、多分やっかみの噂でスカー準男爵がやり手だったのだろう。
その後男爵家から子爵家に陞爵したと言われているが、その辺りもジェミニ侯爵家が五代前くらいの頃の話だから、理由はよく分からない。
取り敢えず分かっているのは、ジェミニ侯爵家が関わっていることと、スカー子爵家所有の商会がバゼル伯爵家の特産品を取り扱ってくれていること。
これだけでいい。
きちんとスカー子爵家所有の商会が取り扱っているドレスを選んでいるのは、媚びていると見られる可能性は高いが、実際に媚びていることもあるから構わない。それよりも、そのドレスを手に入れて着てみせることで、スカー子爵家にバゼル伯爵家は感謝していますよ、という示しになると考えてのこと。
媚びているだけだ、と鼻白むようならその後の付き合いは挨拶程度で終わるし、感謝していることを示していることに気づくようなら、特産品の取り扱いだけでなく積極的にスカー子爵家の商会を利用していくことになる、という判断を含めて選んだドレスを着て。
アイノはスカー子爵家へ足を踏み入れた。
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