手紙による波紋。その1
イオノは国王からの了承を得て辞去する。帰りの馬車内で安堵の息を吐いたのは、アイノの出生について何も言われなかったからだった。様子見という可能性が無いとも言い切れないが、おそらく知らないのではないか、と思っての安堵である。
帰宅し、アイノに陛下との謁見内容を話せば一先ずこれで安心ね、とこちらも安堵の息を吐いた。子どもたちにも今のところは婚約の打診は無い、と伝えその後数日は何も無かったのだが。
「ノジ公爵ナハリ様からの手紙が届いた」
ダスティンから封筒を差し出され、封蝋と差出人を確認したイオノが素早く開封し読み終えると、アイノを呼んで手紙を差し出した。読んで良いと判断したアイノが目を通せば、あまりにもおかしなところのない時候の挨拶しか書かれていない手紙だった。
「つまり、書けないような何かが起きた、ということですわね」
アイノが断じる。
「やはりそうなのだろうか。今まで全く無かった手紙。それも当たり障りの無い時候の挨拶しか書かれていない手紙など、どういうことかと思ったが」
他に何か書いてあるのか、と手紙を明かりに透かしてみたが何も無かったので、逆に不安になってしまいアイノに見せた。アイノの考察と全く同じなのでイオノも何があったのか、と不安ばかりが付き纏う。
「あなた、大丈夫ですわ。落ち着いてくださいませ。悪いことだろうと良いことだろうと、ここでアレコレ気を揉んでも何も分からないことだけは確かです。急ぎレシー国へ向かう準備を始めましょう。
あなたは仕事の引き継ぎを。私はどうしても断れない社交が三つ有りますからそちらに出席次第、レシー国へ向かう準備をします。一つは私を養女にしてくださったジェミニ前侯爵夫人のお誘いによる詩を読む会。こちらは明日。もう一つがその侯爵家を通じて知り合いました、バゼル伯爵家の領地で作られている特産品を取り扱ってくださっている商会夫人の茶会。子爵家の商会ですが、いくつかの高位貴族と良好の仲を築いているみたいですから、断る方が良くないですわ。こちらは本日ですから、支度して直ぐに向かいます。最後の一つは、ゲルデ子爵家からの茶会。これは三日後ですわ」
アイノはその他の社交は断っても大丈夫だというので、早速断りの手紙を出したようだが。イオノは説明された出なくてはならない社交の一つに子爵家の茶会があることに首を捻った。
ゲルデ子爵家の名は知っているが、何が重要なのか分からないので。
「ゲルデ子爵家は何が重要なのだ?」
あとの二つは理解出来るが。
「ゲルデ子爵家はどういう子爵家かご存知?」
アイノにちょっと呆れたように問いかけられ、イオノは首を傾げる。
「ゲルデ子爵家は確か、王都から見て南東に位置する領地があるのではなかったか? 土が豊かで野菜の実りも良い国の重要な土地」
イオノの答えにアイノは半分正解、と返事をしてから更なる正解を口にした。
「あなたの認識は正しいけれど、私が社交を行う上で重要に考えているのとはちょっとズレているわ。ゲルデ子爵領は、側妃殿下のご実家である家と縁戚関係にあたるのよ。これまで挨拶を交わすことはあっても茶会に招かれたことなど無かったのに、このタイミングで誘われたの。どう考えても我が家に用があるのよ。どなたかの意向に沿って、ね」
イオノは絶句した。
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