登城の理由。
「陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
イオノが挨拶すると、陛下は頷く。
「先触れでは、レシー国の公爵家の跡取りに関する話だとあったが」
やはり大国だけあって気にかかる内容なのか、陛下の方から話を切り出してきた。
「はい。陛下にはアイノとの婚姻の際にお伝えしました通り、元々レシー国のノジ公爵家の嫡女でした。一人娘ゆえに婿取りの予定でしたが、私の元に嫁入りしてくれ、その際にノジ公爵から私たちに子が生まれたらその子を養子に、と望まれましたので。
我が国は男児のみに継承権が与えられておりますが、レシー国では女児にも継承権が発生します。つまり我が娘のルナベルかロミエルをレシー国のノジ公爵家へ養女に、と考えております。
他国の家へ養女に出す以上、陛下にも承諾していただきたい、と願い出て参りました」
イオノの話は何もおかしなことはない。養子縁組をするのなら、家同士で話し合いを済ませて、国王には後から報告するものだが、国内ではないゆえに、国王に話をして知っていてください、と言っているだけなのだから。
「ふむ。そういうことか。あい分かった。娘二人のどちらか、ということだな。併しまだ幼いのではなかったか」
「息子のリオルノと娘のルナベルは双子で八歳を迎えております。もう一人の娘のロミエルは六歳。先日の王家の茶会には三人揃って参加させていただきました」
「そうか。ふむ、やはり三人共に幼いな? そんなに早くから養女に出向くことを二人の娘たちは了承しておるのか?」
イオノは、陛下と親しい間柄では決してない。挨拶をする程度。だからこそこんなに尋ねてくるとは思わず、内心、陛下も記憶を保持しておられるのだろうか、と勘繰る。だがそれを表に出すわけにもいかず。
「はい。ルナベルもロミエルも了承しております。既にレシー国へ赴き、ノジ公爵夫妻にも会っており、お二方からどちらを養女にするか決めていないが、どちらを迎えても良いように、二人に跡取り教育を施したいと伝えられております」
イオノの言葉に、そこまで話が進んでいるのか、と陛下は思う。ということであれば、どちらが跡取りとして迎えられても婿取りは必要。我が子のノクティスかアイヴィスを婿に送り出すというのも有りか、と考えたところで。
「分かった。そこまで話が進んでおるのなら、余は反対することはない。ところでどちらを養女にしても、後々婿取りは必要だな? その辺りはどう考えているのか」
探りを入れることにした。
イオノとしては、記憶が有ろうと無かろうと、王子殿下との縁談は望まないので、これ幸いと先手を打つ。
「ノジ公爵夫妻の意向無く縁談は結べません。無論、養女に出しても我が子であることは変わりませんから、娘が幸せになれそうな縁組は望ましいですが、ノジ公爵夫妻としては、レシー国の貴族家との縁談を望んでいらっしゃることでしょう。
アイノも婚約者は決まっていなかったものの、向こうの貴族家を婿入りさせるべく、ノジ公爵夫妻はいくつかの家を候補と見做していたようにございます。ただ話を進めるより早く、私のところへ嫁入りしたい、とアイノが話したことから、婿入り候補の家に打診もしていなかったことで、そちらとの縁組は無くなりました。
ですので、ルナベルかロミエルが養女として公爵家へ行ったとしても、今度こそレシー国の貴族家との縁組を望まれることか、と。二代続けて他国との縁組より、自国の貴族家と縁を繋ぎたいようでして」
イオノが整然と説明すれば、確かに公爵家とはいえ、他国。それも大国である。そう考えると迂闊に王子たちの婿入りを打診するわけにはいかぬ、と陛下は口を閉ざし。
ルナベルかロミエルが養女へ行くという話を了承するだけで、話を終えるしかなかった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。