茶会の終わり。その2
「なるほど。丁寧な対応、か。アイノ、どう思う?」
イオノは妻を見る。
「何とも言えないけれど。おそらく記憶を保持しているのではないかしら。あくまでも想像だけど。ロミエルの時間が過去に戻って来ているとして。私たちも巻き戻ってきたとはいえ、記憶を保持していないから分からないから、ロミエルの時間、という言い方なのだけれど。
時間が巻き戻ったら性格が変わるとは思えないのよね。もし時間が巻き戻ることで性格が変わるのなら、私やイオノ。或いは使用人たちやお義父様、お義母様の誰かしらの性格が変わると思うわ。一人だけ性格が変わるというより、他にも居ると思の。でも今のところ性格に影響が及んだ、ということはない。
これからそういう可能性があるのかもしれないけれど、それよりはノクティス殿下に前の記憶がある、と考える方がルナベルに対する態度が違う理由に納得いくわ」
アイノの説明に家族は頷く。
「ということは、これから気が抜けなくなる、ということか。王家から婚約打診の連絡がくるかもしれないな。それは断るつもりだが。そうなるより前に、登城して以前話し合いをしたように、陛下にルナベルかロミエルがあちらへ養子に出すことを伝えてこよう。前もって先触れを出し、登城の日程は調整つけてもらってあるからな」
イオノが自分の両親や家族での話し合いの結果、登城して陛下に養子の件を報告することになっていたが、陛下はお忙しい方である。そう簡単に会えるはずもなく、先触れを出して簡単に陛下に会いたい理由も記しておいたが、それに対する日程の連絡は、茶会の後だった。まぁ仕方ないことであった。
二日後、イオノは登城する。
「お茶会は恙なく終わりを迎えましたが、ノクティス殿下にロミエルと同じく記憶がある、と考えるのであれば陛下がその辺りを確認して来るでしょうか」
リオルノが慎重に考えを口にする。
「それは無いだろう。仮に陛下にも記憶が保持されているとしても、迂闊に喋ることはしない。人の上に立つ以上、確信出来ること以外を喋るのは足を引っ張ることになるからな」
リオルノの考えをイオノは一蹴する。確かに軽率に口にして余計なトラブルを起こすことは拙い。場合によっては国王陛下のご乱心か、と疑われかねない。
そんなことになれば、王太子も決まっていない王家で王位争いが起きる可能性だってある。
特に第一王子・ニルギス殿下と第三王子・アイヴィス殿下対第二王子・ノクティス殿下の対立構造が簡単に出来てしまう。本人たちに争う気が無くとも周囲が勝手に敵対関係を作り上げてしまうことになる。
そのような余計なトラブルを引き起こさないためにも、陛下も迂闊に喋ることはしないだろう。尤も水面下では大半の貴族家が第一王子・ニルギス殿下が王太子位を授けられるだろう、と予想しているが。
陛下から議会で打診があれば満場一致で了承が得られる、と思う。何しろニルギス殿下の能力に疑いは無い。執務能力は高く、公務で国民の前に出ても不可はない。他国の王族と相手国の言語で会話も出来るし、貴族たちの間での評価も悪くない。
所作は美しいしマナーも常識も当然のようにしっかりしている。多少腹黒いところはある、という噂もあるが上に立つのなら、それくらいではないとやっていけない。ということで、ニルギス殿下が王太子位を授けられることに対して不安は無いのが、貴族家当主たちの認識だった。
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