茶会の裏側。その2
「まぁそなたの考えが愚かであることは早々に知れて良かったとしましょう。やはりこの記憶があることに感謝して、そなたを王籍から除籍してもらうよう陛下にお願いしましょうか」
母がノクティスを叱責してから、当初の計画通り自分と息子の王籍除籍を願い出ようと考えた。ノクティスは、ハッとする。
「母上、それです。なぜ私を王籍から除籍させようと言うのですか!」
「その愚かな考えの所為でしょう。前の時も陛下に謝ってもらい自分でそれを受け入れておきながら、結局のところは自分で思いを消化し切れずに不貞を働いた。それは自分のコンプレックスから抜け出せなかっただけ。そして今回は陛下に謝ってもらいながら受け入れることをせず、陛下から格別なご配慮を賜っていることを理解していない。その上で前の時に傷つけたミゼット嬢を陛下のため、と言いながら実際は自身のために婚約者にしようと考えている。そのような半端者且つ欲深い者が王籍に留まっていること自体、母として見過ごせません」
ノクティスは母の言うことを理解出来ない。
「私が半端者、だと? 欲深い者、と?」
混乱して母の言葉を繰り返す。側妃は「ええ、半端者で欲深い者だと思っておりますよ」と肯定する。
「理解出来ないようですね」
「半端者というのは、陛下の謝罪を受け入れておいて納得出来なかったことでしょうが……。感情とはそんな簡単に割り切れるものでは無いはずで」
母の呆れた声にノクティスはなんとか言葉を絞り出す。
「感情が簡単に割り切れないことは人である以上知っております。ですが、貴族であった私でもそれを呑み込みました。そのように教育されるからです。そなたは王族として尚のこと、そのように教育されたはずですが?」
その指摘にノクティスは言葉を詰まらせる。貴族は元より王族は何があっても感情を表に出さないように、と教育される。好悪の情も喜怒哀楽の情も表に出すことで足元を見られてしまうからだ、と。
どれだけ理不尽な思いをしても、それを呑み込み受け流してこそ、と。無論、人である以上、呑み込み受け流すことが難しいこともある。理不尽な思いというのはそういったもの。それを吐き出すのは、心底信頼出来る相手にしか許されない。
仮令家族といえど、足の引っ張り合いをしてくるような者も居るのだから。それを見極め、真に自身の味方である者以外には吐き出すことも考慮せねばならない。あとは一人きりの部屋で独り言ちるくらい。
それくらい上に立つ者というのは、常に自分の言動を見られているし、足を引っ張ろうと画策してくる者が居ると考えなくてはならない。それは時に将来を失わせるほどの強いものかもしれないし、時に命をかけて失わせるほどのものかもしれない。
感情を簡単に表に出すというのは、それだけ危険性が秘められているのだ、とノクティスは教育された。
それを忘れたのか、と母の指摘だ。忘れたつもりは無かったとは言えない。
現にノクティスは感情に引っ張られ呑み込むことが出来なかった父の言葉を忘れられず、その呑み込みきれなかった思いがやがてジゼルという一人の令嬢の登場で、具現化してその後は坂を転がる石のように、人生が転がり落ちたのだから。
そういった意味では確かにノクティスは半端者であった。
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