恙きお茶会。その2
「なんだか、前の第二王子殿下とは雰囲気が違う気がします」
ポツリと小声でロミエルが溢す。
「その話は帰ってからにしよう。誰が聞いているのか分からん」
リオルノが小声で窘める。これだけ小声なら大丈夫じゃないか、とルナベルは思ったがロミエルはそれもそうか、とばかりに深く頷いたので口にはしなかった。それに絶対に聞かれない、と言い切れないのも確かなのだから。
「では、お兄様。ロミエル。我が家と付き合いのある家へご挨拶に参りましょうか」
ルナベルが気持ちを切り替えるように切り出す。この茶会には、この国でのアイノの養家である侯爵家の正当な嫡男とその弟君も出席しているはずだからだ。戸籍上なら三人兄妹の従兄弟にあたる。
「そうか。母上の養家である侯爵家にご挨拶に向かわねばな」
戸籍上の従兄弟たちが、自分たちの父親の妹として戸籍に記録されているアイノのことをどのように聞いているのか分からないが、簡単だったとしても知らないことは無いだろうと判断し、リオルノは音もなく立ち上がる。それに続いてルナベルとロミエルも立ち上がった。
向かうは高位貴族の席だが、残念ながら三人共に侯爵家の兄弟の顔を知らないので、王城の使用人に席を教えてもらうことにした。
ロミエルが前の記憶を持っていても、前の時はアイノの養家であった侯爵家との交流はロミエルの中では無かった。仮に有ったとしても、イオノとアイノが夜会で顔を合わせて挨拶する程度だったのではないか、と思う。
目当ての席には第三王子殿下・アイヴィスが居て、立ち去るのを待つべきか少し悩んだが、待つほどもなくアイヴィスが去って行ったのを確認して、リオルノが先に、ルナベルとロミエルが後ろにて、そちらの席へ足を向けた。
その席にはさらにもう一人子息が座っていて、先程尋ねた使用人の話では公爵子息であることも確認済みだった。
あちらから声をかけてもらわないと、突っ立ったまま、ボンヤリと時が過ぎ去るのを待つような間抜けなことになってしまうが、幸いにも公爵子息が気づいた。
「なんだ君は」
「初めてお目にかかります。私はバゼル伯家の男子、リオルノ・ミゼットと申します。こちらに控えてますのは妹のルナベルとロミエルと申します。こちらにいらっしゃるジェミニ侯爵家のご兄弟様は、我が母の養家でありまして。ご挨拶申し上げられたらと思いまして、参りました」
公爵子息の問いかけにリオルノが答える。公爵子息は、「ああ、あのバゼル伯爵家の」と納得した顔をしたので、おそらくは母がレシー国から嫁入りしてきたことを把握しているのだろう、とリオルノは推察した。
さすがは公爵子息である。その辺りのことも把握しているというのは中々無いことだろう。
そして、リオルノと公爵子息のやり取りで、母・アイノの養家である侯爵家の兄弟もリオルノたち三人兄妹の存在に気づいたようで、公爵子息とのやり取りが終わったところで、リオルノに声をかけた。
「はじめまして。リオルノ殿。私は君の母上・アイノ様の養家であるジェミニ侯爵家の嫡男、セニア・デュフォン。それと弟のマロウド・デュフォンだ」
スムーズに声をかけてくれたのは、公爵子息の手前というのもあるだろうが、アイノがレシー国のノジ公爵家の令嬢だと知っているから、というのもあるだろう。初対面ということもあるからか、だいぶ穏やかな声かけでもあった。
マロウドも続いて挨拶をしてくれたので、改めてリオルノがセニアとマロウドの兄弟に挨拶をし、ルナベルとロミエルも二人に挨拶をすることで、三人兄妹の茶会デビューは上々のようだ。
先ずはこの兄弟に悪い印象を抱いてもらわないことが、茶会の目的でもあった。国外追放の憂き目に遭いたくないが、それより前にミゼット家の味方を一人でも多く作りたかったので。
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