恙きお茶会。その1
「はじめまして、バゼル伯爵家の嫡男殿と妹君方」
とうとう、王子殿下三人が三人兄妹のテーブルまで来てしまった。緊張はするが、それくらいならマナー違反にはならないだろう、と思われた。その三人兄妹の緊張に気づいているのかいないのか。
にこり、と口元に笑みを刷いて第一王子・ニルギスが三人兄妹に声をかけてくる。身分が上の者から先に声をかけることが貴族のルール。声をかけられたバゼル伯爵家嫡男、つまりリオルノが代表してニルギスに返答する。
「ニルギス第一王子殿下並びにノクティス第二王子殿下並びにアイヴィス第三王子殿下におかれましては、本日の茶会にお招きいただきまして、大変光栄に存じます。妹のルナベル並びにロミエルと共にリオルノ・ミゼットがご挨拶申し上げます」
兄の挨拶と並んで頭を下げるルナベルとロミエル。リオルノと同じような挨拶で三人の王子殿下たちに挨拶をした。
王子殿下たちの表面上は変わることが何もなく、その挨拶でまた別のテーブルへ回って行った。気を抜くわけにはいかないが、取り敢えずやり過ごすことが出来た、と三人兄妹は思った。
全てのテーブルを回り終えたら思い思いの時間を過ごすように、と告げられお茶会はスタートした。
さすがに直ぐから王子殿下たちの周りに侍ることは無いようで、先ずはサーブされたお茶や菓子を食している。静かに会話を交わしている声があちらこちらから聞こえて、順調な滑り出しといったところか。
「周囲に合わせて動く方が良さそうかな」
リオルノがルナベルとロミエルに視線を向けたが、王子殿下たちの方が行動が早かった。どうやら今度は三人がバラバラに各テーブルへ足を向けることになっていたらしい。
庭園で開かれる茶会ならば、テーブルがたくさんあっても動きに制限が出ないからか、子息子女の方が三人の王子殿下たちの周囲に侍ることが出来る。
だが。広いホール内とはいえ、室内だからなのだろう。テーブルによってある程度行動が制限されてしまう広さになっているため、王子殿下たちが分散して各テーブルを回る方が交流目的を果たせるらしい。
折角香り高く癖の無い茶葉で入れられた紅茶の味を嗜むことが出来そうだったのに、これでは味が分からないな、とリオルノは内心で嘆息した。
「先程は丁寧な挨拶をありがとう、バゼル伯爵子息」
1テーブル辺り10分あるかないかくらいの時間で、各テーブルを回っているようだが、このテーブルにやって来たのは、ノクティス第二王子殿下。
彼に記憶があっても無くても、ロミエルから聞かされた話が未来に起こる出来事なら、油断はならない、とリオルノは妹たちを守るべく気合いを入れ直す。
「こちらこそ、先程も申し上げましたがこのような茶会にご招待いただきまして、大変光栄に存じます。さらにはノクティス殿下におきましては、我ら兄妹のテーブルに足を運んでいただくなど、恐れ多いことにございます」
こういった挨拶は何度しても過剰ということにはならない。
「そろそろ友人を作る方が良い、との父上の仰せでね。異母兄上と異母弟と共にこの茶会を開くことが決まったのだ。それゆえにこのような大人数での茶会。もし良ければ、バゼル伯爵子息と妹君方もこの茶会にて友人を造られてはどうかな」
「ありがとう存じます」
おそらくどんな家の子息子女にも同じような声掛けをしているのだろう、と思える発言。特段変わった内容でもない。
イオノとアイノが言っていたように、この茶会で顔を繋ぎ後々にまで交流が出来るような話の流れ。
「ところで、本日の茶会、生憎の天候となってしまったが、楽しめているだろうか、妹君方」
ノクティスが不意にルナベルとロミエルに話しかける。どちらもいつ声がかかっても良いように、注意深くリオルノとのやり取りを見守っていたので、二人共に微笑んでノクティスの問いかけに「はい、楽しめております」と声を揃えて返した。
そうか、では最後まで楽しんで行ってくれ、と告げたノクティスは次のテーブルへと去って行った。
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