茶会の裏側。その1
「そなた、それが本音なのね」
厳しく冷たい声音で母に問いかけられ、ノクティスは身体を震わせるものの、なんら間違いはない、と頷く。
今度はルナベルと婚約したら大切にするし、他の女性と関わりを持たないし、だからそのことに感謝して大国・レシー国と優先的に繋がれるはず。それは父の役にも立てる。良いことだらけではないのか。
「そう、記憶があってもそなたはそこまで愚かでしたか。教育の質が悪いのか、元々の素質か」
母の失望した、と言わんばかりの声音にノクティスは「なぜです」と言葉を落とした。なにも、なにも悪くない。それどころかこれ以上ないくらいの正しさではないか、と。
「なぜ? そんな疑問を持つあたり、そなたの元々の素質のようですね」
嘆かわしいとばかりに母が扇子で顔の下半分を隠して、目だけは射抜くような鋭いものを向けてくる。
「母上、なぜそのような、まるで私を悪人とでもいうような素振りをなさいますか」
ノクティスは訳が分からないと母を詰る。
「まるで悪人のような、ではなく、正しく悪人でしょう。記憶があるのなら反省しているのかと思えば、自分の都合ばかり。良いですか。抑々、あのように何もしていない令嬢に罪を被せた。それも大勢の目がある前で。
仮にもバゼル伯爵令嬢が、そなたの言うようにそなたの寵愛を受けていた小娘を咎め立てし、虐めたとしましょうか。ですが、それの何が悪いとそなたは言うのです」
ルナベルがジゼルに嫌がらせ行為などをしていた事実は無かった。ジゼルの嘘だった。
だが、それが真実だったとして、それの何が悪いのか、と母から問われてノクティスは言い募る。
「それが真実だったら嫌がらせをしていたルナベルが悪いでしょう」
母ともあろうお人が何を言っているのか、と訝しく思う。虐めなど人として恥ずかしい行為ではないか。
「ですからなぜ」
「なぜ? 人を咎め立てし虐めるなど恥知らずではないですか」
母は前の時、礼儀や常識等にとても厳しい方で、侍女たちの中で諍いがあっても、華麗に諍いを止めて起こした者の言い分を聞いて処罰していた。その母の疑問とは思えない。
「ならば。婚約者が居る身で他の令嬢を婚約者か恋人のような扱いをしていたそなたは、恥知らずではないのですか」
「それは」
穏やか、いや、とても冷たい声で問われてノクティスは続けられる言葉が無い。
「ならば、婚約者の居る男に近づいた小娘は恥知らずではないのですか。私の知る常識や礼儀では、非常識だと思われる行為ですが。それも婚約者でも恋人でもない男との距離感を間違えベタベタとして。
本当は貴族令嬢などではなく娼婦だったと言うのであれば、おかしくない距離感だったようですね。それを咎め立てし、退くように忠告したにも関わらず引き下がらないのならば、虐げてもおかしくないでしょう。そのような小娘こそが恥知らず、というのではないのか」
母の叱責を込めた口調に、ノクティスは黙る。前の時もノクティスをこうして叱責し、父にも何度か諫められた。その時は叱責されればされるほど反発し、諭されれば諭されるほど聞き流した。
だが、改めてジゼルと自身の振る舞いを言い聞かせられると、常識知らず、恥知らずなのはどちらであるのか明快である。
自身のやらかしだが第三者のように聞かせられると、恥ずかしさでいっぱいだった。
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