王家の茶会。その3
茶会当日。
好天だった。と言えればまだ憂鬱な気持ちはマシだったかもしれないけれど、残念ながら荒天だった。
見事に雨風が吹いていて中止にしてもいいような天気。
簡単に中止出来ないのは、王都だけでなく領地から出てきた子息子女も多いので、何のためにわざわざ出てきたのか、という話になるからである。
王城で武官や文官の仕事を持つ貴族家の当主は、家族も大概王都にて暮らす。持たない家は領地で暮らすことが多い。当主或いはその妻が社交シーズンに領地から王都へ出てくることが多いが、子どもたちは領地にて育てられる。
それなのに、イオノが当主を務めるバゼル伯爵・ミゼット家は領地で暮らすことなく王都で暮らしている。イオノは武官でも文官でも無いのに。代々そうしているわけではなく、イオノ自身は学園に入学する二年程前まで、領地にて暮らしていた。
では、なぜその子どもたちは領地で暮らしていないのか、というとアイノが他国からこの国の侯爵家へ養女として迎えられ、さらにミゼット家に嫁入りしたからであった。
侯爵家とアイノの交流やイオノの両親との交流をするのに、王都の屋敷で暮らす方が合理的だった。それがそのまま今も続いている。
結果的に王家の開く茶会や夜会に出席しやすい状況になってしまっている。今後は王家と最小限の関わり方にするためにも、社交シーズンを終えたら領地へ帰る方が良さそうか、とイオノは考えていた。
「おはようございます、お父様、お母様」
朝食の席に天気とは裏腹に元気いっぱいの挨拶をしたのは、ロミエルだ。元気いっぱいで、子どもらしいかもしれないが淑女教育とは掛け離れているような挨拶ながら、その所作は淑女教育を受けてないのに洗練されている。
その所作一つとっても巻き戻った話を信じられてしまう。イオノとアイノはロミエルに挨拶を返し、続いて入ってきたリオルノとルナベルにも挨拶をして、朝食を摂る。
ロールパンに子どもたちにはミルクたっぷりの紅茶がサーブされ、それと季節のフルーツが出された。茶会があるのが昼。大抵菓子だけでなく軽食も出るものなので、朝食は軽く食べることにするのが、茶会出席のマナー。
それでいて茶会時に、山盛りで菓子や軽食を食べるなどドン引きされるのだから、貴族の世界というのは意外とつまらないものである。
茶会にて全く手をつけないことはマナー違反だが、例えばケーキが十種類あったとして、そのうちの一種類か二種類を、一個か二個食べる程度にしていないと食い意地が張っていると思われる。何とも理不尽だがそういうものとして飲み込むものだ。
だから茶会から帰った日の晩餐は、いつもよりやや早めに開始され、多めに量を出すのがどこの家でも暗黙の了解だった。
さておき。
「このような天気だが、中止の連絡が無い以上は出席しなくてはならない。ドレスが濡れる可能性を考慮するのなら、中止するものではあるのだがな。あまり目立つことのないよう行動には気をつけるように」
仕事があるため、着いていくことが出来ないイオノは、子どもたちに執拗いくらいに言い聞かせつつ、何事もなく茶会が終わることを空に祈ろうとして。こんな荒天では祈るのも難しいか、と諦めた。
子どもたちは天気が悪くても粛々と支度を整え、御者が差し出す大きな傘と共に次々と馬車に乗り込み、アイノも乗せて王城へ出立した。
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