王家の茶会。その2
「簡単なことよ。殿下方の周りに集まる子息子女の外側で殿下方を囲えばよいの」
アイノが明快な答えを提示する。婚約者や側近狙いの子たちは、相手を押し退けてまで殿下たちの周りに囲む。押し退けられたり身分差を考えてそこまで積極的になれなかったりする子息子女は、その子たちの外側で殿下たちを囲む。それに紛れれば良い、というのがアイノの助言。
「ただ、これはあちら側に誰一人として巻き戻り前の記憶が無ければ、通じるけれど。誰かが巻き戻り前の記憶を保持していたら、私の出生のことを知っているだろうから、ルナベルかロミエルに近寄って来る、或いはリオルノを側近にしようと考える、でしょう」
イオノとアイノは、ロミエルの記憶の中では、来年に庭師の交代が起きる予定だったのに、既に庭師の交代が起きたことを三人に今、伝えた。
「えっ、庭師がその役を息子に譲ったのは私が七歳のときですが」
ロミエルが案の定驚く。
「そう聞いたわね。でも既に世代交代が起こったわ。それは巻き戻りなんて本来ならあり得ない出来事が起きていることで、早まったのかもしれない。だからあちら側に記憶保持者が居てもおかしくない。何があるか分からないのよ」
それに、とアイノは自分の母が原因不明の眠り病についていることが頭に過ぎる。このことはイオノと養父であるノジ公爵・オゼヌと妻カミーユとの話し合いで、子どもたちには伏せている。
だが、実父であるレシー国王・ナハリが口にしたように、実母・メルト妃が眠り病に罹っていることが、巻き戻り現象の弊害であるなら、簡単に目を覚ますことは無いだろう。
巻き戻り前に実母が眠り病に罹っていたのか、それは分からないが。巻き戻り現象の対価を支払っているのだとしたら、子どもたちに伝えて罪悪感を抱かれても困る。子どもたちが悪いわけでもない。
尤も確定していないことを迂闊に話すことは出来ないのも確か。
だから子どもたちには話していない。
同時に、巻き戻る前と後で庭師の世代交代が一年とはいえ早まったのなら、ロミエルの記憶通りに事態が進むとは限らないし、全く違う出来事が起こらないとも限らない。
それは王家側に巻き戻り前の記憶保持者が居てもおかしくない、ということ。
「つまり、私と妹たちが目立つ行動を取っていないのに、殿下方或いはその近しい人が私たちを気にかけて来るとしたら、あちら側にも記憶を持っている人が居るということでしょうか。当人が近づいて来るのか、頼まれた誰かが近づいて来るのか、それは置いておいても」
リオルノは、八歳にしてこんな穿った見方が出来るくらい聡い。というより、ノジ公爵家を訪れて公爵から直々に穿った物の見方を教えられたというべきか。
息子の成長を逞しく思う反面、もうちょっと子どもらしく居てもらっても良かったな、とイオノもアイノも密かに思うが。
後々貴族家当主という立場に立つのなら、必要な能力である。
「そうよ。権力者が記憶保持者なら、誰かが近づいてくる。何を言われるか分からないけれど、目立ってないのに向こうから近づいて来るなんて、そういうことよ。まぁ陛下が記憶保持者なら、婚約或いは側近の打診が内々で来ていてもおかしくないけれど。他の誰が記憶保持者でも権力者では無い限り、茶会で接触してくる相手は警戒した方がいいわね。そういう炙り出しをする意味もあって、周りと同じことをしておく方がいいと思うわ」
アイノに言われ子どもたちは素直に頷く。茶会当日はアイノが付き添うことになっているが、親は親同士で子は子ども同士に別れるのだから、対応は自分たちで行うしかない。
「茶会の時に記憶保持者が居なくても、後々記憶が戻ることもあるかもしれないし、油断は出来ないから王家とは必要最小限の関わりが一番良いのよね」
アイノのこの言葉には、全員同じ気持ちだった。
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