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妹の夢の話?その2

 ロミエルの話を根気よく聞き出したイオノは、大きく溜め息をついた。まだ六歳のロミエルから話を聞くのに順序立ててというのは難しい、と分かっていたので根気よく聞いたわけだが。


「つまり、ロミエルの話をまとめると、ルナベルは十歳で王家主催のお茶会にて、第二王子であらせられるノクティス殿下と婚約をした」


「そうです!」


 先ずの確認でイオノが言えば、ロミエルは元気よく返事をする。

 この談話室には、父・イオノ。母・アイノ。兄・リオルノと姉・ルナベル。そしてロミエルと執事のダスティンが居る。


 談話室は客を持て成す応接室とは違い、ミゼット家の代々の家族が集まる部屋で、落ち着きのあるダークオレンジの壁紙が目に優しく、昼夜を問わず家人を癒す。そして一人一人がゆったりと座れる一人掛けのソファーが円を囲っている。


 その脇には小さなサイドテーブルが一つずつ。現在は五人の家族だが、ソファーは十脚揃っていて必要数以外は、普段は片付けられている。


 そして。イオノの後方で控えているダスティンは、イオノが乳母の養育から手が離れた頃から、イオノの従者を経て執事の座に就いた有能な人物だし、時にはイオノをきちんと諌められる主人に仕えるに相応しい使用人でもある。

 だからこそこの話し合いの場に居ることが許されている。


「そしてそこから七年。ルナベルとノクティス殿下は相思相愛とは言わずとも、穏やかな関係を紡いで信頼関係を築いていた?」


「はい」


「だが、その七年目……ルナベルとノクティス殿下が学園生三年目を迎えたとき、入学してきた男爵家の令嬢にノクティス殿下が恋をした、と?」


 夢物語のようなロミエルの話。

 寝起きだったからそんな夢でも見たのか、と思いながらもイオノはロミエルに尋ねると、ロミエルが強く頷く。


「ノクティス殿下は、国王陛下と同じキラキラした金髪に空色の目をしていないことを気にしていて」


 イオノは、先程まで夢物語だと思っていたのに、ロミエルのその言葉に目を見開いた。


「ちょっと待て。なぜロミエルは第二王子殿下の姿が陛下と同じ色では無いと知っている?」


「えっ、だってお会いしてますから。私もお兄様とお姉様が十歳の時に出た王家のお茶会に、八歳で出ましたし、お姉様とノクティス殿下が婚約したから、顔を合わせてましたし」


 イオノの質問に、お父様は何を当たり前のことを言ってるのかしら? とでも言いたそうな顔で首を傾げて質問に答えた。

 そこでようやく、イオノは夢物語では無いのかもしれない。と思うようになった。


 まだ六歳でこの伯爵家から出たこともないロミエルが、第二王子殿下の姿を知っていることがおかしいのだから。


「そうか。ロミエル、殿下の髪の色と目の色は何色か答えられるか?」


 イオノは伯爵家当主として、国王陛下並びに王妃殿下。そして側妃殿下と第一王子殿下・第二王子殿下・第三王子殿下との面識はあった。

 第二王子であるノクティスが、側妃と同じ髪と目の色をしていることも。


「えっ、もちろんです。ノクティス殿下の髪は、側妃殿下と同じ白に近い白茶色の髪と夜空色の目です」


 イオノは、ロミエルの話が夢物語じゃない、とほぼ確実に思ったが、もう少し確証が欲しい、と思う。


「そうだな。よく覚えてた。それでそのノクティス殿下は男爵令嬢にどうして恋をしたのだ?」


「それはあれです。男爵令嬢のジゼル様って、国王陛下と同じ金髪に空色の目をしていたから。彼女と結婚すれば、自分の子が陛下と同じ色で生まれてくるって思ったからです! それからいつも明るくて大きな声で笑い声をあげているジゼル様が可愛らしいって」


 明るく大声で笑うというのは、淑女としては有り得ないのだが、とイオノは内心で溜め息をつく。そのように感情が表に出てくる者というのは、笑顔を浮かべながら他者の足を引っ張ることが得意な貴族社会に於いて、感情に左右されやすくて致命的である。


「ノクティス殿下がそう仰ったのか」


「はい」


 そして、そんなジゼルとかいう娘と結婚したいがために、男爵令嬢と出会って一年後。ルナベルに婚約破棄を学園生四年目にして、卒業式終了の直後に宣告した、と。


「それをルナベルはどう聞いた?」


「お姉様はお兄様と、学園生の私と三人で一緒に居たところで話を聞いていまして、婚約破棄の件はお父様にお伝えしますって仰り、私とお兄様と三人でさっさと帰って来ましたの。

お父様は、伯爵家の娘が王子妃なんて無理だ、と断ったのに王命で婚約を結ばれてしまい、その王命を王子が破棄するなんて、陛下への反逆だぞ、と怒りながらも登城して婚約破棄についての話し合いに行きました」


 イオノは、まぁそうだろうな、と納得する。妻のことも子どもたちのことも、自分なりに愛しているし、理不尽なことは仮令(たとえ)王族と言えども一度は反発するだろうから。


「それで、どうした?」


「ノクティス殿下がそんなところで宣告したので、撤回出来ずにお姉様は婚約破棄。それと、そんなことは一切無いと言えるのに、お姉様はジゼル様を虐めたとかで国外追放に。おまけにそのジゼル様をお姉様の代わりにミゼット家の養女に迎え入れてノクティス殿下の婚約者とせよって」


 イオノは、あまりにも滅茶苦茶な話に唖然とする。ここまでずっとイオノとロミエルしか会話をしていないが、アイノもリオルノもルナベルもダスティンも、話が夢物語のように思えて仕方ないので口を挟まなかった。

 併し、話を聞くにつれ、一応当事者のはずのルナベルは、疑問に思うことがあった。……全く記憶に無いので夢物語にしか聞こえていないにしても。


「ねぇ、ロミエル」


「はい、お姉様」


「どうして国王陛下は、そんなにも我が家と縁づきたいのか知っていますの? だってミゼット家は伯爵位であるから第二王子殿下の後ろ盾にはちょっと難しいですわ。然も(しかも)男爵令嬢を伯爵令嬢として迎えろ、なんて」


 仮にルナベルが本当に男爵令嬢を虐めていたとしても、ロミエルが居るのだからバゼル伯爵位を持つミゼット家の令嬢との婚約は、ロミエルに変更すればいいのだ。

 でも、そういった対応をせずに男爵令嬢を養女にしろとは意味が分からない。


「それはあれです、お姉様。国王陛下は王妃殿下との間に、中々子が出来ませんでした。三年しても出来ないから迎えた側妃殿下に子が出来て。でも側妃殿下が産んだノクティス殿下が、陛下とは違う色で生まれてきたことで、陛下が不貞を疑ったのです。

というのも、側妃殿下に子が出来たときには、王妃殿下もようやく子が出来て。そして王妃殿下が先に産んだネーブル第一王子殿下は、陛下そっくりの髪と目の色をしていて、陛下そっくりの顔立ちだったのに、数日後に生まれたノクティス殿下は側妃殿下そっくりの色合いだったからって」


 そこでロミエルは一旦話疲れたように言葉を切ってダスティンが入れたお茶を飲んでから続ける。


「でもノクティス殿下は陛下そっくりの顔立ちだったから、不貞を疑ったことを恥じて。そのためなのか、ノクティス殿下にはちょっと甘くて。だからノクティス殿下がジゼル様を望むのなら、ミゼット家の養女にするように王命を出したんです」


 イオノは、陛下が側妃殿下の不貞を疑った話を噂として聞いていた。ただの噂だと思っていたが、未来を見てきたらしいロミエルの話から察するに、真実だったらしい。


 なるほど、陛下はその罪悪感から側妃殿下とノクティス殿下に甘いのか、と納得する。登城すると、陛下は側妃殿下と第二王子殿下に甘い、という噂をあちこちで聞いていたので。


 原因がそれであれば、既にもう甘い顔をしてしまうという噂が流れるのも納得がいく。


「ロミエル、そういう理由も確かに知りたいのだけどね、そうではないの。なぜ、公爵家と侯爵家のご令嬢を差し置いて伯爵家の我が家が、第二王子殿下の婚約者として選ばれたか、なのですの。私が殿下と婚約したいとか言いましたの?」


 ルナベルの質問をやっと理解したロミエルは、ああそういうことですか、と頷き、答える。


「確かにお姉様より年上や年下に公爵令嬢様や侯爵令嬢様がいらっしゃいます。でも、陛下はご存知でしたの」


「なにを?」


 ロミエルは他にも候補がいたことを認めた上で、そんな思わせぶりな発言をするので、ルナベルも引き込まれたように尋ねる。


「それはもちろん、お母様の本当のご実家が侯爵家ではなくて、この国の南にある大国・レシー国の王女だということですわ」


「「えっ」」


 ロミエルが当然のように口にした言葉に、リオルノとルナベルは驚き、何を言っているのかと絶句した。母・アイノは侯爵家の出身のはずだ。


「ロミエル、それを知っているのは、私がロミエルに話したのか」


 イオノは、突然に声を低くし、怒りを抑えるように声を潜めて、重々しい口調で尋ねた。


 アイノの出生の秘密は、現時点ではイオノとイオノの両親とダスティンしか知らない。アイノは当然知っているが。

 そして、イオノは現時点で子どもたちに真実を伝える気は無かったから。


「はい。お父様が王命でジゼル様をミゼット家の養女にするよう命じられた際、陛下がお母様の出生の秘密を知っていた。それで我が家と縁づきたいのだ、と理解した、とお母様とお兄様と私に仰いました。

その時点で既にお姉様は国外追放というあまりにも理不尽な命のために、我が家を出ていましたから、お姉様はご存知無かったです。

お父様はお母様の出生の秘密を子どもに話す気はなかったけれど、理不尽な王命を出されて話すことにする、と教えて下さいました。

それからお父様は、王命を拒否してきたから、国外追放にする、と脅されたことで、お母様の本当のご実家がある南の大国・レシー国へ行く、と。追放より先に国から脱出する、とお父様はお決めになられました。

そして先にレシー国へ行くことになったお姉様の後を追うように、私たちもレシー国に向けて馬車に乗っていたのですが、気づいたら六歳の私に戻っていましたの。なぜかしら」


 ロミエルの長い長い話は、やはり夢物語ではなく。話を再度聞いて、ようやくイオノ以外の家族もロミエルの話を理解して。


 ダスティン含め、ロミエル以外のみんなが大きく溜め息を吐き出した。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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