側妃の思い。その2
昼食後ならば時間が取れる、と母の返事をもらい、ノクティスは母を訪った。ガイの話を確認するためであり、何を考えているのか知るために。
「母上にはご機嫌麗しく」
「挨拶は無用。ノクティス。尋ねたいことがあるのでしょう?」
自分と同じ白茶色の髪と夜空色の目をした、けれど自分とは違い柔和でほっそりとした面立ちの母が厳しく声をかける。
ノクティスは頷き無意識に深呼吸をしてから、母に真正面から切り込んだ。
「私を王族籍から除籍したい、という話は真実でしょうか」
「ええ、真実です」
ノクティスの緊張など気にも留めないように、あっさりと肯定する母に、なぜです、と問いかけた。
「あなたも知っての通り、陛下からあなたの出生を疑われたことが発端です」
顔立ちは父にそっくりで有りながら、髪と目の色が母そっくりというだけで、その生まれを疑われた自分の存在が今回の一件を引き起こした、と母は言う。
「私が父上の髪と目の色を継いでないから、母上は私を疎ましく思っていらっしゃるのか」
ノクティスが奥歯を噛み締めてその言葉を搾り出すと、母は目を瞬かせた。
「違うわ。あなたは、陛下と同じ色の髪と目ではないことを気にしていたでしょう? 陛下が発した失言を耳に入れられてあなたはそれを気に病み、陛下が謝ってくださったことを受け入れても表面上のこと。謝ってくれたから、と自分は許したフリをして気に病んでいる。そうでしょう」
今度はノクティスが目を瞬かせた。
父の失言を耳に入れた後、父に謝ってもらったのは前回と同じ。但し、それを受け入れたのは前回であり今回は受け入れなかった。
だからこそ、父は自分との時間を作っているし、異母兄と異母弟との交流の話まで出来た。
それは謝罪を受け入れなかったから。
でも母は謝罪を受け入れた、と確信しているように話してきた。
「それは。私がやがて父上と同じ色の髪と目をした令嬢を寵愛したことで、母上は気づいたのでしょうか」
ノクティスは母も前回の記憶を持っている、と判断して尋ねる。母は目を見開いた。
「そう、ノクティスも前を覚えているの」
「はい。だから今回は父上から謝られても受け入れませんでした」
「ああ、そうだったのね。そう、それで前の時と今が違うのね」
母がなるほど、と頷く。
「はい。今度は表面上、父上の謝りを受け入れることは止めました。その結果が異母兄と異母弟との交流会という話になったのです」
母が理解したように頷く。
「そして、私があのお二方とあなたの間を仲違いさせようとしたことに気づいたわけね」
「はい」
「あなたは、今度は自分の責務を果たしたいと望んで状況を変えようとしているのかしら」
「それもありますが、婚約者に、ルナベルに謝って今度は婚約を続行し、レシー国との繋がりを存続させよう、と。父上の役に立つことにもなりますし、国にも良いことになるでしょう」
ノクティスは母が前回の記憶を持っていることに安心して、本心を吐露する。母も喜んでくれると思っていたのだが、ノクティスの意に反して、母の眉間に皺が寄って嫌悪の情を露わにしていた。
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