先に進むには。その3
両親と子どもたちは楽しそうに会話をしていた。どうやらイオノが一足先に帰国してから、子どもたちはオゼヌ公とカミーユからレシー国の言葉を教えてもらっていたようだ。共通語があるからそれを駆使してコミュニケーションは取れていたが、レシー国の言語を勉強しておくことは必要だとリオルノが申し出て、勉強が始まったとアイノがイオノに説明していた。
話が一段落したところへ、イオノは両親に話があると切り出した。子どもたちの将来のこと、と。
「あちらの家の跡取りの話か。それならば子どもたちが居ない方がいいのではないか」
父が心配そうに返して来るが子どもたちのことだから子どもたちも知る権利がある、と答えれば納得したように頷いた。
「父上と母上はご存知ではありますが改めて。私も何度か参加したことが有りますが、高位貴族を対象とした王家主催のお茶会の招待状が来る時期です。断ることは出来ないために参加させますが、ルナベルとロミエルを王家に嫁がせる気は有りません。アイノも同意しています。お二人にもそこはご理解頂きたい」
「私たちは構わないが、ルナベルとロミエルの意見を聞かないで決めていいのか」
イオノが野心は持たないことを伝えると、父は構わないと言いながらも孫娘たちの気持ちを尊重すべきと答える。母も頷いている。
「お祖父様、私もロミエルも王子殿下と結婚は出来ません。教養もマナーもどれだけ勉強しても足りない気がしますし、身分は伯爵位の娘です。公爵家や侯爵家の皆さまに睨まれてまで王子妃になりたいなんて思いません。それに常に皆さまからの視線を浴びるのでしょう? 失敗したら責められそうで失敗も出来ないでしょうし、怖いです」
ルナベルが整然と話す様は大人びてるように見えたが、最後の怖いの一言が子どもらしく見え、同時にそれこそがルナベルの本音に思える。ロミエルも横で頷いているので、孫娘たちは王子妃に興味が無いのだ、と二人は理解した。
親であるイオノとアイノにもその気は無いのであれば、自分たちも孫娘たちに苦労をかけさせる気はなく、王家に嫁がせないことを了承する。リオルノも妹思いだから二人の妹が嫌がるのなら王家に嫁がせないだろう、とも理解した。
「分かった。ルナベルとロミエルが望まないのだ。私たちもそんなつもりは無いし、了承する」
「それで、提案したいことがありまして。どちらがノジ公爵家の跡取りになっても、どちらかに婚約者は必要だと思うのです。どちらでも構わない、と思うような家をご存知では有りませんか」
アイノは義父母の理解を得られたと同時に、そんな提案をした。
「心当たりが無いわけじゃないが。どちらでも構わないという家は、どちらを嫁がせても顧みられることが無かったり尊重されなかったりしそうだな。それはルナベルでもロミエルでも不幸になりそうだ。それよりはルナベルを望む、或いはロミエルを望む、という者の方が良いのではないか」
父の尤もな意見に、イオノは押し黙る。確かにどちらでもいい、という家は個人を見てくれる可能性が低いとも言える。
「そんなに急いで婚約者を決める必要も無いでしょう。イオノも学園に通ってアイノさんと巡り会ったわけだし。どちらがあちらの家の跡取りになってもいいとは思うけれど、きちんと決まってから、もう一人の婚約者を決めた方が良いと思うわ」
母にも諭され、口を噤む。母は高位貴族に萎縮してしまうだけで元々聡明な人である。
イオノの祖父が、父と母の政略結婚を決めたのに、祖母はそれが気に入らず、母に厳しく当たっていたのだから、本当に祖母が悪いとしか言えない。
取り敢えず、二人に諭されイオノもアイノも一旦考えることにした。確かに焦って変な婚約を結んでしまっては別の不幸を生みそうだから。
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