先に進むには。その1
一時帰国でアイノと子どもたちが揃う。出迎えるのはイオノとその両親。出迎える側も出迎えられる側もぎこちなさがあるものの、子どもたちの屈託ない笑顔に、そのぎこちなさが解けていた。
「ゆっくりして欲しい、と言いたいがアイノは少し話をさせて欲しい」
互いの認識を擦り合わせておく必要がある。アイノも心得たように頷いた。そんな二人がイオノの執務室へ向かい、子どもたちは祖父母にレシー国のお土産を渡すためにも、一旦旅装をといて落ち着きたい、とリオルノが申し出た。
「そうね。着替えてゆっくり話を聞かせて頂戴」
「そうだな。あちらの祖父母のことも聞かせて欲しい」
祖父母は応接室で三人を待つことにし、三人は着替えに各自の部屋へ向かった。
その頃イオノの執務室にて。
「アイノ。あちらはどうだった」
「そうね。リオルノに変化が現れたかしら。三人共少しずつ成長しているけれど、それは見た目の話であって、中身の変化が顕著なのがリオルノね」
イオノが問いかけた内容は漠然としているのに、アイノは的確な返答をする。イオノが知りたいことが何で有るのか、アイノは理解していた。
「そうか。それは楽しみだな。こちらの方だが。実は母が孫娘を跡取りにしたくない、と言い出して」
どこから話すか悩んだが、順を追って話をしていく方がいいか、とイオノは話し始めた。
「孫と離れたくない、ということ? 私たちも子どもと離れたくないけれど、ルナベルを悲しませないようにするためなら、寂しさは我慢出来るわ」
アイノが直ぐに返答する。イオノは、分かっていると頷き、話を続けた。
「巻き戻りの件は話してない。今の両親では混乱すると判断したから。母はアイノの予想通り、孫と離れることを寂しがった。だから国内に嫁げるように考えていたようだ。でも、それではあちらのノジ公爵家が跡継ぎ無しということで途絶えてしまう。そう伝えた」
イオノの説明にアイノが息を吐き出す。
「それでは、他の親戚から跡取りになりそうな者を迎え入れてもいいのでは、と尋ねられた?」
アイノが問いかけてきたがイオノは首を振った。
「貴族同士の契約だ。そう簡単なことでは無い、と母に伝えてある。アイノが跡取りとして育ててもらった恩を結果として仇で返すことになってしまった。そのことを改めて母に伝えれば、母も気づいてくれたよ。アイノを嫁がせる。その代わりに私たち夫婦の間に生まれた子を、跡継ぎにする、と契約を交わしたことを思い出してくれた」
アイノは、そう、と頷く。
本当の話し合いとは違い、イオノはアイノに隠しながらも必要なことは伝えていく。
母のコンプレックスなどアイノに告げてもアイノを困らせるだけだし、況してやリオルノがルナベルかロミエルより爵位が下になる、などと考えていたことは話す気になれなかった。
そんかことを話しても、アイノからすれば、今さら何をと思うだろうし、爵位や生まれに関しては、それこそアイノにどうしようもないこと。
だからイオノはその辺りのことを口にすることなく、アイノに状況を伝え、だから巻き戻りについて話すことは止めてある、とも告げた。
「今のところ、だ。今後どうなるのかは私も分からない。取り敢えず、母を説得してルナベルかロミエルがノジ公爵家の跡取りとして養女に行くことを、心から納得してもらった。現状はそんなところだ」
イオノの話で、一歩前進したのだろうか、とアイノもホッとした。
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