側妃の思い。その1
ノクティスは、衝撃だった。
「母上が私を王籍から除籍する、という考えがあったとは……」
さすがにノクティスだけでなく、ニルギスとアイヴィスも衝撃を受けたようで交流を目的とした茶会は開かれることなく、終わりになった。あの日から数日が経過している。ただ衝撃が強過ぎて、この数日は考えることを拒否して、惰性のように日課をやり過ごしていた。
ガイはニルギスから謹慎を言い渡されており、現在ノクティスに仕えているのは、ノクティスの部屋付きではあるが専属ではない侍従と侍女。
他国では分からないが、この国では専属と部屋付きの使用人は差があった。専属というのは、選ばれた時から他の者に仕えることなく、その主人の側に、休日以外は朝から晩までずっと侍って仕事をする。
対して部屋付きの使用人は、選ばれたらその主人に主に仕えるが、休日の交代や人数の足りないところに行くこともある。
例えば、ノクティスの部屋付きの使用人が、人手が足りないから、と側妃の使用人としてヘルプに向かうこともあり得る。その逆もある。
だから部屋付きの使用人に主人の行動を全て知られることにはならない。知られて万が一他所に漏洩されては厄介だからだ。大げさではなく命に関わることにも成りかねない。
対して専属は主人の予定や行動を全て把握しているのが通常。信頼が物を言う立場であった。
その専属侍従と侍女に母とはいえ、ノクティスという主人ではない人間の言葉を聞いてそれを優先されたというのは、使用人と主人の関係に信頼が無いことを示していた。
「母上の気持ちをしっかり聞いておきたい」
ノクティスはようやくその考えに至った。考えてみれば、時間が巻き戻る前、母とどんな風に接していたのかと思い返してみれば。
父が自分を不貞の子だと一瞬だが疑ったことを知り、謝ってもらったとはいえ引っかかっていたのだと思う。そのせいなのか視野が狭かったことは確かで、母ともあまり交流した記憶は無い。
いや、会いに行けば可愛がってもらっていた。教育が進めば褒めてくれたし、躓けば慰めてくれた。ただ王族として最低限のことが出来ていれば、無理にやらなくてもいい、出来なくてもいい、と言われていたのではなかったか。
甘やかしてもらっていたのは成長していくに連れて理解出来たが、あれはもしかして王族として優秀ではないことを示し、後々何かやらかして王族籍から除籍されるように誘導されていたということか。
実際、ノクティスはルナベルと距離を置き、可愛らしいジゼルに惹かれて、ルナベルと婚約破棄を突き付けた。その後、実はルナベルの母が南の大国・レシー国の王女だという素性を父から知らされて、報復に怯えていたのは確かだが。報復はされなかったとしても、王族の自覚無し、と王位継承権剥奪どころか王族籍除籍の憂き目には遭っていただろう。
「誰か母上に先触れを。話をしたいので都合を聞いてきてくれ」
専属の侍従も侍女も居ないから、ノクティスは部屋つきの誰かに母の都合を確認しに行くよう頼んだ。顔を見合わせて直ぐに動くことが無い。
専属であるかないか、というだけで迅速さに欠けてしまうのか、と複雑な気持ちを抱くが、誰か、と言うことは誰でもいいから、ということであり、それなら自分以外の誰かが行くだろう、と積極性にも欠けてしまったのだろう、と納得した。
それゆえに、ノクティスは一番年上の侍従に、先触れを頼むと改めて命じる。頷き直ぐに動いたのを見て、やはり具体的に相手を頼まないとダメなのだな、と一つ学んだ。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
9/30時点でタイトル変更します。
【巻き戻ったからには婚約破棄を取り消したいっ。】から【巻き戻ったら見えてなかった背景を知った。】というタイトルに変更します。
尚【巻き戻ったからには婚約破棄を取り消したいっ。】のタイトルが気に入っているので、改めてこのタイトルに見合う作品を書こうか、悩んでます。若干タイトルを変えて書く可能性もありますが、思案中。改めてこのタイトルを使用した作品をお見かけしましたら、その際はよろしくお願いします。
本作はまだ完結しません。続きます。




