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生じたズレ。その3

 イオノは絡まり縺れた糸を解すような気持ちで、現在分かっている事象を書き出すことにした。便箋を縦半分で折り目をつけて、左側にはロミエルから聞いたおそらく巻き戻り前の大まかな事象。右側には現在起きている事象。右側に書くことが少ないのは確かではあったが、それでも一番大きな違いが目に見える。


 アイノがレシー国の出身で元王女で公爵家の跡取りとして養女。という事実を、知らなかった前の時と、知っている今という一番大きな違い。


「ダスティン」


「は」


「もしもルナベルが王家から婚約が打診をされたとして、私はそれを断っただろう」


「はい。旦那様はお断りになられたと思います」


「その理由はもちろん、我が家から王子妃輩出は荷が重い、と私ならば率直に断るだろうな。だが、執拗く打診され、更に王命を出されたとなれば、断れなかっただろう。だが、その時点で私は、なぜ、我が家に打診があったのか調べると思わないか」


「左様にございますな。或いは陛下に直接理由をお訊ねなさいましょう」


 イオノの確認事項に相槌を打ち、疑問には即答するダスティンは、さすが長きに亘りミゼット家の執事を務めているだけのことはある。


「そうだろう。だが、陛下はアイノがレシー国と関わりがある、とご存知だったとしてもそれを全面に押し出してくるような方だと思うか?」


「それは」


 ダスティンは言葉を紡げない。

 直接お会いしたことはないのはもちろんだが、イオノや前伯爵であるイオノの父からの話を聞くに、国王陛下は、あまり無茶なことは言わないタイプであるように思えた。

 そう考えると、王命でルナベルとノクティス第二王子殿下との婚約を締結したことに違和感がある。


「公爵家と侯爵家を差し置いて、反対の声を無視して婚約締結されるような方とは思えませんな。それも王命を出してまで」


「私もそう思う。ロミエルの話が真実だと仮定して。実際にレシー国との繋がりが欲しいことも本音だろうが、他に何らかの意図があったのではないか、とも考えられる。それを私はおそらく探ったか、陛下に直接理由を問うことをしたはずだ。

いや、ルナベルが婚約破棄を言い渡されてから、陛下がレシー国との繋がりを欲していたことを知ったらしいから、何らかの事情により、私は陛下に理由を問うこともなく、探ることもしなかった。

さて。理由も知らずに王命だと言われて易々諾々と受け入れたその時の私に、何が起きたとダスティンなら考える?」


 確かに伯爵として、子どもたちの結婚は政略的なものを結ぶような冷静さはイオノにある。その一方で、子どもたちに、それなりの幸せを考えているのも確かだということはダスティンも分かっている。

 ならばこそ、婚約を打診されたのなら断るだろうし、王命を出されたとしたのなら、その背後を調べようとするだろう。だが、それをイオノは行わなかったとしたなら。

 一体どんな理由でそれを行わなかったのか。

 ダスティンは問われて考える。


「一つは領地に問題が起きた、でしょうか」


 ダスティンが例を上げるからイオノは頷く。続けろという意味に取ったダスティンは、仮に、と口にして続ける。


「領地でトラブルが起き、それは領主である旦那様が出向かわないと解決しないもの。そして、直ぐに解決しない相当なことが起きた」


「なるほど。それなら調べている暇は無いな。だが、そんなことが起きる前に父が気づいて手を打つ可能性がある。そして、おそらくそんな出来事は無かった。あればロミエルが話しているはずだ」


 ダスティンはそれもそうか、と頷く。ロミエルが話してないということは、そんな大きな出来事が領地で起きたことは無いということだし、イオノの言う通り、何かあれば、領地に居る前伯爵が対応しそうである。


「では、その大旦那様か大奥様が病に倒れ、危篤状態だった、とか」


「確かにそれもあり得るが、それもロミエルの話には出ていない。無論、ロミエルが全ての記憶を覚えていて、話したわけではないかもしれないが、庭師が息子に交代するような話をしておいて、自分の祖父母にあたる二人が病に罹ったことを覚えてないとは思えない」


 ダスティンの例え話に頷きつつも、イオノは否定する。ダスティンも確かに、と思ったが、ふと気づいたことがあった。


「いえ、覚えてないのではなく、ご存知なかったとしたのならいかがでしょうか」


「覚えてないではなく、知らない?」


 イオノは怪訝そうな顔でダスティンを見る。深刻な面持ちの執事が頷いて、イオノはハッとその意味に気づいた。


「そうか。私とアイノとダスティンは知っていても、子どもたちに話さなかった可能性か」


「はい。左様にございます。仮に領地でトラブルが起きたとしても、大旦那様か大奥様が病に罹ったとしても、旦那様と奥様がお子様方に心配をかけるまい、として話さない可能性はございます。そうであるのならロミエル様が覚えていないのではなく、ご存知なかった可能性もある」


「確かに。私の判断で子どもたちに心配をかけたくないから黙っていよう、とすれば話さないな。だが、そのようなことが起これば、確かに婚約の打診が来ても調べている暇は無いかもしれん。

領地の問題が片付いた或いは父上か母上の病が治った、としても時間はかかっただろう。その頃には王命で婚約が締結した後だから、覆すことも出来なかった。そういうことなら、調べることもせず、婚約打診を回避出来ず、易々諾々と受け入れるしか無かっただろう」


 とすると、両親に巻き戻りの件について、話すかどうかまだ決めていないが、領地でのトラブルが起こったとしても早いうちに父が解決しそうだから、両親の体調について懸念していることを伝えておくか、とイオノは念頭に置いた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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